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1000年目
30 義兄4 ※空
しおりを挟む※※※ 空 ※※※
「ですが、それも今日で終わりです」
サージアズ卿の声に、ダザル卿はようやく目を開ける。
我にかえったらしい。
ダザル卿はまわりを見まわした。
「私は……何を?」
サージアズ卿は微笑んだ。
「よく打ち明けてくださいました。
では、もうゆっくりお休みになってください。
隣のよしみです。この領地は私が引き受けますので」
「……何を……言っている?貴様、何様だ!この領地は私のものだ!
ふざけるのも大概にしろ!私をいったい誰だと思っている!」
「――誰でしょう。ダザル卿なら、ほら。いらっしゃいましたよ。
御子息と一緒に」
「何……?」
ドアを開けて三人の男性が入ってきた。
二人は貴族、一人は家令のようである。
一番年嵩の、貴族の格好をした男性の顔はダザル卿に瓜二つだ。
ダザル卿の顔色が変わる。
「―――な!なんだこいつらは!変装だろう!偽物だ!私が本物の――」
ソファーに座ったまま大声で叫んだダザル卿に、サージアズ卿が告げた。
「――そう証言する者は。もうこの屋敷にはいませんよ」
「……なん……?」
「まず御子息の奥方様とお子様は、日々暴力を振るう御子息に愛想を尽かしておられまして。
喜んで、《こちら》についてくださいました。
お子様――貴方のお孫さんが成人し、この家を継ぐまであと2年。
それまでもそれからもしっかり保護させていただきますので、ご安心を」
「―――」
「そして時間はかかりましたが。
ようやくこの屋敷の使用人全員を、《こちら》側の者に出来ました。
今更ですが。
使用人を雇い入れる時はもっと慎重になられた方がよろしいですよ?」
「―――」
「そうそう。先祖代々、こちらの家令をつとめられているモルトさんが一番の難関だったのですけれど。
貴方が自ら愛想を尽かされることをして下さいましたので助かりました。
ご協力感謝します」
「愛想を?わ、私が一体何を」
「その様子だと失念されていた様ですね。
モルトさんの家は先祖代々、それは敬虔な『空』の信仰者なんですよ。
貴方は『空の子』様を攫おうとした。自分の欲の為にね。
モルトさんが愛想を尽かすのも当然でしょう?」
「―――――」
「モルトさん。貴方のご主人はどちらに?」
サージアズ卿の問いに先程部屋に入ってきた家令の男性が答える。
「はい。旦那様は若旦那様と共に、私の横におられます」
「モルト!お前っ!」
ダザル卿は怒りで震えている。
サージアズ卿は笑顔のままその顔をのぞきこんだ。
「お分かりでしょう?ダザル卿の偽物さん」
「サージアル卿……あ、貴方は。一体……」
「お忘れですか?私の義弟が何者であるのかを」
「義弟?……《王家の盾》の当主っ!し、しかし!貴方には何の関係も……」
「ああ、やはり貴方も勘違いされていたのですか。
《王家の盾》とは《当主が代々王家に忠誠を誓う、忠義ある家》のことではありません。
我が一族のことではないのです。
―――我が一族を中心にした《ひとつの組織》のことです。
貴方のように王家を危険にさらす存在を秘密裏に裁く、ね」
「なん……」
ダザル卿は目を見開いた。
しかし、次第にその目にまぶたがおりてくる。
「密輸に賄賂……。第3王子殿下に続き『空の子』様まで狙ったこと。
それだけならまだしも。
まさか前王妃様を――ご自分の娘を手にかけていたとは。
残念です。
貴方にも良心があるだろうと、やり直せる道を何年も前から国王陛下や優しい《外孫ご夫妻》様が用意してくださったのに」
「―――」
「《王家の盾》――私の義弟が第3王子殿下についたことで、他の貴族が貴方と距離をおき日和見を始めた時。
第3王子殿下が南の宮の執務室ばかりを使い、手が出せなかった時。
隣国の大使が《何故か》貴方に助けを求めた時。
そして《何故か》この地で捕縛された時。
『空の子』様が現れ、ますます第3王子殿下の存在感が増し、お仲間が貴方から離れていった時。
『空の子』様がこの領地へ《お忍びで》来ると知った時。
どこからでもやり直せたはずなのに。貴方は一向に行いを改めはしなかった。
《外孫ご夫妻》様もお嘆きです」
「……そと……まご……ごふさい……?」
サージアズ卿はダザル卿の耳元で囁いた。
「――どうぞ良い夢を。御子息と一緒です。寂しくはないですよ」
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