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1000年目
20 村で ※チヒロ
しおりを挟む※※※ チヒロ ※※※
【テオが良くしていただき……その上、命を助けていただいたなんて。
なんとお礼を言ったら良いのか】
テオからの手紙を読み終わったテオのお父さんは声を詰まらせた。
一族の長だというテオのお父さんは精悍な顔をしていた。
けど、少し下がった目尻が親しみやすさを感じる。そこは……そう。
ちょっと《人攫い》に似ているかもしれない。
その横で、やはりテオの手紙を見ていたテオのお母さんが両手で顔を覆っている。
肩は震え嗚咽が溢れていた。
胸が痛む。……そうだよね。
テオったら。意地を張ってないで一緒に来れば良かったのに。
せめて死病に罹ったことは内緒にしておきなさいよ。
ダメだなあ。ご両親に心配かけちゃって。
―――それにしても、びっくりした。
一族の長――テオのお父さんと、居並ぶ男性二人の服装を見る。
この三人はさっき私たちを迎えに来てくれた男の人たちだ。
きっと一族の代表者なのだろう。
……その服装。
作務衣に似たそれには、ものすごく見覚えがある気がする。主に教科書で。
どの時代の服装なのか。
そこまでははっきり覚えていないし、この国で形を変えられている可能性も高いけど。
一番近そうなところで言ったら神話の神様が着ていたような……。
もしかしたら。ううん、多分きっと。
テオの一族のご先祖さまには前世の《私》――《千尋》と同じ国に生きた『空の子』の先輩がいるのだろう。
『ソウマ・シン』さんと同じように。
招かれた一族の長の――テオの家も。
……木でつくられていて、床が高く階段がついていた。
山だもの。平坦な場所だけじゃない。
だから斜面にも家を建てるための工夫なのかもしれない。
けど、やっぱり教科書で見た物に似ている。
一ヶ所に定住はせず高山を移動し暮らしている、という。
移動する時はこの家も持って行くのかな。
確かに組み立てが簡単そうな家ではある。
全体で一部屋になっていて、衝立で仕切って生活するらしい。
中には目を見張る美しい調度品の数々。
燭台、置物、衝立。目に入る物全てに細かい彫刻が施されている。
物々交換をするために作るとテオに聞いていた。
高山のふもとの町にこれらの調度品を持って行き、薬や布などと交換してもらうのだと。
でも、これほど素晴らしい物だったとは!
これを作る人たちの中で育ったのだ。
テオの器用さも納得できる。
調度品以外もそうだ。
ドアと窓にも飾り。模様がくり抜かれたところにはガラスがはめ込まれていて、そこからは外の光が届けられている。
全面にガラスを使わないのは、割れにくいように工夫してのことなのかも―――
と。
見ていたドアのガラス部分に女の子の顔が見えた。
こちらを心配そうにうかがっている。
その顔を見た瞬間に《わかった》。
【――ルミナちゃん?!】
突然私が大声を出したので、みんなびっくりしたようだ。
代表の方々――テオのご両親と男性二人はすぐに振り返りドアを見た。
ドアの向こうの女の子は一斉に向けられた視線に驚いたらしく目を見開いた。
私は代表の方々の間をすり抜けドアを開けると、階段を降りて走り出そうとしていた女の子に言った。
【ねえ待って!貴女、ルミナちゃんでしょう?】
女の子はオロオロと、どうしようか迷っていたようだがやがて観念したようにこくんと頷いた。
やった!良かった、すぐに会えて。
階段の下までルミナちゃんを迎えに行く。
並んでみるとルミナちゃんは背の高い子だった。
それもそうか。ルミナちゃんはテオより3つ年上なのだ。今は16歳のはず。
テオが背が伸びないのを気にしていた理由がわかった気がする。
でも……今のテオならルミナちゃんより背が高い。
ああ、テオに教えてあげたい!
私は嬉しくてたまらなくなった。
【初めましてルミナちゃん。私はチヒロ。テオの友達なの】
【……テオの……友達……?】
【そう。あのね。テオから貴女にって預かってきた物があるの。
渡したいから一緒に来て?】
何故か遠慮するルミナちゃんの背中を押して部屋に入る。
するとテオのお父さんが言った。
【お待ちください。あの。ルミナが――その子が何か?】
【驚かせてごめんなさい。
テオからこの子に渡してくれと預かってきた物があるので渡したくて】
【預かってきた物?】
【ええ。だから呼び止めたんです】
【それは……どのような。貴女は……息子とは、どういう関係で】
【え?どういうって……言いましたよね?友達ですけど?】
【友達……ですか。失礼ですが、その。《ただの》友達で?】
【え?……まさか。疑われてます?私。ルミナちゃんの恋敵だって。
テオったら。もしかして、私のこと何も書いてなかったんですか?】
【いえ。一番、詳しく書いてありました。
《王宮》へ上がるきっかけとなった方で、お世話になっていると。
……そして命が危ないところを助けていただいたと……】
【それだけ?】
【は?ええ。……貴女は、我々の言葉が素晴らしく堪能でいらっしゃる。
《そうなるほど》息子と長く一緒にいるのだと察しますが。一体……】
―――なるほど。
テオのお父さんは私に、この世界の言葉全てを操れる『全語』があることを知らない。
私が《テオを通じて自分達の言葉を覚えたのだ》と思って当然だ。
テオったら。仕方がないなあ。
私は帽子とカツラを外し――にっこり笑った。
【これでわかってもらえませんか?】
テオのお父さんは絶句した。
まわりからは叫び声が上がった。
一人爆笑した《人攫い》をエリサが怒っている。
……テオったら。
《そこ》は手紙にちゃんと書いておいてよ。
私は《同い年の女の子》なんだから、誤解されて当然でしょう。
くううううー。
絶対、私のこと《おばさん》だと思って気にもしなかったよね……。
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