婚約者の恋人

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 (落ち着け……落ち着け……)
 こんなにも心が荒ぶるなんて本当どうかしてる。
 別にフェリクスに恋をしている訳でもない。ただこれまでの自分は恵まれた立場であったが故に、ローゼリアのようなとび抜けて不躾な人間と接する機会がなかった。そうだ、耐性が無かったのだ。
 そう思うと肩から少し力が抜ける。
 今自分がやるべき事は、彼女達の真実を明らかなものにして、すべて終わらせて実家に帰る事だ。相手に合わせては駄目。

 「突然ですけれど、私実家に帰る事になりましたの。それで最後のご挨拶をと思いまして。」

 シルフィーラの言葉にローゼリアはわざとらしく目を見開き“まあ!”と小さな声を上げた。

 「どうして!?フェリクスと何かあったの?」

 自分のせいだという考えはまったく無いらしいその反応に、持ち直した心が再び折れそうになる。

 「私はこの家に必要の無い人間ですわ。」

 「そんな……!フェリクスにはあなたが必要なの!どうかそんな事言わないで頂戴!」

 もしかして自分は性格が悪いのだろうか。何だかすべてが芝居がかって見えてしまう。そして口から出て行く言葉も彼女を前にするとつい刺々しくなる。

 「ではローゼリア様、ここから出て行って頂けますか?」

 「え……?」

 ローゼリアはキョトンとした顔で首を傾げる。

 「なぜ?なぜ私がここを出て行かなければならないの?」

 「お身体の静養でしたらどこか他を探しますわ。私がベルクール卿の妻となるからには、今のような状態はあまり好ましくありませんから。」

 もっとはっきり言ってやらなければ駄目だろうか。そう思うほどローゼリアは意味がわからないという表情をしている。
 シルフィーラは深い溜め息をついたあともう一度、今度はもっと直接的な言葉を投げ掛けた。

 「……私、平気な顔をして同じ敷地内に愛人を住まわすような殿方とは結婚できませんの。」

 ここまで言ってようやくローゼリアもシルフィーラの意図を理解したようだ。
 ローゼリアは慌てたように弁解を始める。

 「待って!何か誤解してるようだわ。私とフェリクスはただの従姉妹で、あなたが思ってるようなふしだらな事は何もないわ!」

 「寝室に笑顔で招き入れるような関係なのに?」

 「それは……それは私の身体が弱いせいで……」

 「先ほどのお茶会での装いと言いこの別邸での暮らしぶりと言い……病弱で他家へお世話になっている身の上の方が、こんな贅沢が出来るものなのでしょうか?不思議でなりませんわ。」

 「それは……フェリクスが必要な物を揃えるのは構わないと言ってくれたから……あの、もしかしてシルフィーラ様、やきもちをやいてらっしゃるの?」

 「は?」

 「そうよね、私がこんなにフェリクスに色々して貰ってるから面白くないのよね。それじゃ今から商人を読んで一緒にお買い物しましょ?大丈夫よ。エリオに言えば何とかなるから!」

 「はぁ!?」


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