婚約者の恋人

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 話は少し前に遡る。
 その日執事のエリオらによって偽造された手紙がアルヴィア公爵邸に届いた。
 両親はもちろんシルフィーラの二人の兄達も、可愛い妹からの手紙を前にして興奮を隠せなかった。

 「何て書いてある?“早く帰りたいから迎えに来て”だろ?」

 「違うよカイン。僕達が迎えに行くまで待ってられないだろうから“これから帰る”でしょ!」

 小さかった妹は年頃になり最近めっきり冷たくなってしまったが、昔は甘えん坊でいつも抱っこをせがんできて兄達はメロメロだった。
 もちろんメロメロなのは今でも変わらない。日を追うごとに美しくなる妹に変な虫がつかないよう常に警戒し時に撃退してきた。
 それでもいつかは好きな男を作ってあっさり自分達を捨てて幸せになるのだろうとは思っていたが、どうせ相手は王都に居を構える貴族だろうから会いたい時にはすぐ会える。何かあれば旦那を殴り倒しに行ってやるくらいの気持ちでいたのだ。
 それなのにシルフィーラが選んだのはよりにもよって辺境の地に住まう男。これじゃ何かあってもすぐに対処できない。二人は頭を抱えた。
 けれどシルフィーラは都会育ちの箱入り娘。無骨な辺境伯との田舎暮らしには耐え切れず、すぐに帰ってくるだろうと思っていたのだ。
 しかし手紙の内容は彼らが想像していた内容とは真逆のものだった。

 「ベ……ベルクールの地を気に入った……?」
 「結婚を早めるだって……!?」

 「やっぱりな。こうなるだろうとは思っていたよ。」

 シルフィーラの父アルヴィア公爵は微笑む。

 「何言ってんの父上!?このままじゃシルフィーラは本当にあんなド田舎に嫁に行っちゃうよ!?」

 カインとアベルは二人揃ってテーブルに手を付き、前に身を乗り出して訴えた。まさか父親がこんな話を嬉しそうにするなんて。
 だって自分達以上にシルフィーラを可愛がっていたのは両親だ。とりわけこの父の妹への溺愛ぶりは時に息子達をも引かせたくらいだ。
 だから例えシルフィーラがベルクールへ行くと言っても絶対に反対するに決まってる。言わば絶対的な最後の砦のはずだった。

 「……ベルクール卿なら必ずシルフィーラを幸せにしてくれるはずだよ。王都で色恋に興じている貴族の子息なんかより余程ね。」

 父親の表情には迷いも躊躇いもない。
 本気でベルクール卿の事を信じている様子だ。

 「何でそう言い切れるのさ?その理由は?」

 それでも納得のいかない兄弟は尚も詰め寄る。人の事は言えないが妹の事となると本当にしつこく、そして見境なくなる兄弟だとアルヴィア公爵は頭が痛くなった。

 「お前達にはまだ話してなかったが、この縁談は卿自ら私の所へ持ってきたんだよ。どうしてもシルフィーラを妻に欲しいと頭を下げてね。」

 「「頭を下げて!?」」



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