婚約者の恋人

７

　二人の力になれたら。
　そう思ってはみたものの、実際にどうしたらいいのかさっぱりわからない。
　セイラに二人の事情を探って貰ってはいるが使用人達は公爵家から来た私達を見るなり口をつぐんでしまう。この屋敷で私達が受け入れられていない証拠だ。
　こうなったらもう仕方がない。シルフィーラは一番この家の内情に詳しいだろう執事のエリオに聞く事にした。
　いきなり呼び出されたエリオはシルフィーラの口から出た思いもよらない言葉に驚き、気まずそうに目を逸らした。

　「エリオ勘違いしないで？私は怒っている訳ではないの。もちろん不愉快に思っている訳でも。ただこのままでは私はこの屋敷でどう暮らして行けばいいのかわからない。二人のためにも詳しい事情を教えて貰えないかしら？」

　シルフィーラの真摯な態度にエリオも観念したように話し出した。

　「……ローゼリア様はフェリクス様の母方であるバジュー男爵家のご令嬢です。幼い頃からとてもお身体が弱く、先代がご健在の頃より空気の良いこのベルクール領へと身を寄せてらっしゃいます。」

　先代の当主が亡くなられたのは五年前と聞いている。“ご健在の頃から”と言う事はもう随分長い間ここで暮らして来たのだろう。そして二人の仲もそれだけ深いという事。

　「エリオ、お願いだから気を悪くしないで聞いて欲しいの。」

　「はい。」

　「この縁談はフェリクス様が強く望んだものだと両親から聞いたわ。私もそう信じてここに来た。でもそれは違ったの？」

　エリオは一瞬言葉に詰まったようだった。

　「遠慮しないで言ってちょうだい？私なら大丈夫だから。」

　それでもエリオは言いづらそうにしていたが、最後は引かないシルフィーラに根負けしたようだった。

　「恐れながら申し上げます。これはあくまで私の考えですが……ローゼリア様はお身体が弱く、もしかしたらお子は望めないかもしれません。それとご実家は男爵家と家格も低い。要所を任され国王からの信任厚い辺境伯であられる旦那様には少し……」

　「男爵家では後ろ盾にならないという事ね。それに比べて我が家は王家の血を引く公爵家……相手としては申し分ないと。」

　「……はい。」

　「なるほど……。では私は完全に当て馬としてここに呼ばれた訳ね。……でも王家の血を引く私を当て馬に選ぶなんて、あなたのご主人様はなかなかの策略家ね。」

　「いいえ！ご主人様は決してそのような方では……！！」

　「だってそれならきちんと事情を説明して、それに納得して嫁いでくれる方を選べば良かったでしょう？今のままじゃ私……ただの飼い殺しだわ……。」

　「シルフィーラ様……」

　「……もういいわ。話してくれてありがとうエリオ。この事は内緒に、ね？」

　エリオは申し訳なさそうな顔で部屋を後にした。