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しおりを挟む「シルフィーラ、お前にとても良いお話が来たんだ。」
揃って笑顔の両親から告げられた言葉にシルフィーラは頭の中が真っ白になった。
何と自分に縁談が来たと言うのだ。
いや、正確には今までにも山程きていたのだが、両親の……特に王族出身である父のお眼鏡に適う相手は初めてだった。
「御相手はベルクール辺境伯だ。」
「ベルクール辺境伯……」
国境沿いの要所を任される国王の信任厚い若き辺境伯フェリクス・ベルクール。
社交界には滅多に顔を出す事のない彼だがその名は誰もが知っている。
「彼の事ならお父上の代からよく知っているが、とても素晴らしい青年だ。私としては娘の夫としてこれ以上の相手はいないと思っている。」
あまり多くの事を語らないタイプである父がここまで言うのはとても珍しい。
そして母も父と同じ意見のようだ。さっきから父の言葉に何度も頷いている。
予想よりもずっと早かったがいつかはこんな日が来るとずっと思っていた。
そして私の願いは家族が祝福してくれる人の元へ嫁ぐ事。それならばもう言うべき言葉は決まっている。
「わかりました。私、ベルクール卿の元へ嫁ぎます。」
まだ花の咲き始めの春の事だった。
***
「本当に行くのかシルフィーラ。」
「もう、お兄様ったらこれで何度目?」
旅立つ日の朝、兄達は何度も何度も同じ事を聞いてくる。
「だってお前……ベルクール辺境伯領はここから遠い。次はいつ会えるかわからないじゃないか。」
「けれどベルクール卿だって用事があれば王都に顔を出すでしょう?その時はお願いして一緒に連れてきて貰うわ。」
「でも……」
「でもじゃないのお兄様。もう決めた事なんだから笑って送り出して?ね?」
しかしやはり兄達は納得がいかないようだった。
そしてそれはもう一人。
「シルフィーラ、何かあったらすぐに僕に連絡するんだ。たとえどんなに遠くても迎えに行く。約束だ。」
「ルシールまで……でもありがとう。とても心強いわ。」
第二王子がわざわざ見送りに駆けつけるなんて前代未聞だ。
けれど私達は皆一つの家族のように育った仲だ。やはり別れは辛い。
「いいかいシルフィーラ。まだ結婚する訳じゃない。あくまで婚約者としてあちらのしきたりに慣れるために行くんだ。無理だと思ったならすぐに連絡するんだよ。」
「兄様ったら……わかってるわよ。それに結婚する前には支度のために帰って来るんだから安心して。……でもありがとう。」
そしてシルフィーラは皆に見送られながら長年住んだ公爵邸を後にしたのだった。
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