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外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編
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しおりを挟むフィランを部屋から追い出したあと、エリーシャは寝室にこもり、寝台の上で頭から毛布を被って横になっていた。
(どうしてこうなっちゃうの……)
エリーシャも、自分が軽率だったことは理解していた。
けれど、素直に謝れない。
フィランだってカサンドラと接触をしていたからだ。
わかってる。それが儀礼的なものだということはわかっているが、それでもこの心はなかなか聞き分けてくれない。
別に仕返しがしたいとか、そんなことを思っているわけじゃない。ただ、話くらい聞いてくれたっていいのに。
だが、嫉妬するフィランの姿を見て安心もした。
今回のことでエリーシャは自分に自信が持てなくなっていたから。
まるで、フィランに出会う前の頃のように。
(今、何時だろう──)
窓の外に目をやると、空には一番星が輝いていた。
「あの……姫様、起きていらっしゃいますか?」
扉の向こうから、ニナの弱々しい声がした。
寝たふりを決め込もうと思ったエリーシャだったが、思えば彼女にも悪いことをしてしまった。
きっと、今回のことは自分のせいだと責任を感じているだろう。
けれど決してニナのせいじゃない。
「起きてるわ。どうしたの?」
「あの、どうしても姫様にお願いがありまして……」
「お願い?」
しかし答えは帰ってこない。
しばらく待って見たが、扉の向こうからニナの気配が消える様子もない。
(どうしたのかしら……)
今までにないニナの様子が気になり、エリーシャはのそのそと寝台を降りた。
扉を開けるとやはりニナはそこにいた。
「ニナ、なにかあったの?」
「姫様、申し訳ありませんでした。私が調子に乗ったからこんなことに……」
「それは違うわ。私がいけないの。だからもう気にしないで」
ニナは遠慮がちにエリーシャの手を取った。
「ニナ?」
「姫様、どうかこちらへ」
ニナはエリーシャの手を引いた。
エリーシャは訳がわからないまま歩き出す。
どうやらバルコニーへ向かっているようだ。
大きな窓は開かれており、エリーシャが足を踏み入れると、そこには小さな客が待っていた。
「ピ、ピイィ……!」
「ノヴァ……」
あの日、城を出てから会うのは初めてだ。
ノヴァは大きな瞳に涙をいっぱい溜めて、胸の前で短い前足をすりすりしている。
「ピ……ピピ……ピィピィ……」
ノヴァはぽつり、ぽつりと声を発しながら、エリーシャの顔を見ては視線を下げ、また顔を見ては視線を下げる。
(もしかして……私が急に会いに行かなくなったから、自分が怒られてると思ってる?)
あの時、浅緋の竜に懸命に話しかけるノヴァの姿を見てショックだった。
けれど事情を知って、幾分冷静になった今ならわかる。
ノヴァは良い子だ。おそらくあの時、短い手足を必死に伸ばして柵を掴み、浅緋の竜に話しかけていたのは、元気のない仲間を励ましていたのだろう。
「……ノヴァ、おいで」
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おそらく視界は歪んでいるだろう。
溜まった涙は今にも溢れそうだった。
エリーシャは立ち上がり、急いでノヴァの側に寄った。
そして少し重くなった身体をえいっと持ち上げて、強く抱き締めた。
「淋しかったね……ごめんね……ごめんねノヴァ」
「……ッ、ピィィィイ!!」
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バラデュール公爵夫人が振った婚約者候補って、やっぱりフィランのお父様かしら( ・᷄ㅂ・᷅ )
妖精さんの問題が片付いたら、こちらの筆もお進めくださいますよう、正座待機でお待ち申し上げております
今朝から四時間かかったけど、とても楽しいお時間でした🙏♥
|´-`)⁾⁾⁾
黑媛様こんばんは(◍´꒳`◍)
わぁ〜💦こちらも読んでくださったのですか?
このお話は、本当に初期に書き始めたものなのですが、子供の頃から頭の中にあった特別な物語です。
それを面白いと言っていただけて、尚且つ四時間もかけて読んでいただいたなんて、こんなに幸せなことはありません。
【剛毛はパッション】ですが、本当にこれはクマ三郎史上類を見ない名言ではないかと😂
最近遅筆が極まってあちこちが手つかずで申し訳ありません💦
必ず最後まで書き上げますので、お待ちいただければ幸いです♡
クマ様。
胸毛(剛毛)はパッション(๑•̀ㅂ•́)و✧
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nico様こんばんは(*ˊᵕˋ*)♡
パッションわかってくださいますか😂
男は大臀筋……笑
あちらのお話もそろそろ再始動しなければいけませんね💦
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nico様こんにちは๓ʕ•ɷ•ʔ๓
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パッションのくだりは……何でこんなこと思いついたんだろうって、不思議でいっぱいです😂
リノのパッションはつるっぱげになっておりますが、そのうちさらなる強い毛となり復活するかと……!