【本編完結】病弱な三の姫は高潔な竜騎士をヤリ捨てる

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外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編

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 あのエリーシャに限って、浮気心が湧くなんて有り得ない。
 だがエリーシャとてお年頃だ。
 外の世界と繋がりを持ち始めたばかりの彼女は、目に映るものすべてが珍しく、興味をそそられるに違いない。例えそれが胸毛でも。
 実際、ラウルと町に出た時の彼女の表情といったら……まるで子どものようにキラキラと輝いていた。
 そんな彼女だからこそ、なんでも知りたい経験してみたいという気持ちになるのも理解できる。もう一度言うが例えそれが胸毛でもだ。
 しかし興味本位とはいえ他の男に……しかも身体に触る場面をフィランに見られたのはよくなかった。

 「リノ、お前よく生きてたな」

 「はい、咄嗟にエリーシャ殿下が庇ってくださって……ですがそれでおふたりはその、喧嘩を……」

 なるほど。ラウルは納得した。
 エリーシャが庇っていなければ、今頃リノは良くて医務室悪くて墓場行きだ。
 それに比べたら、またいつか生えてくる毛を刈られるくらいの罰は、どうと言うこともないかすり傷のようなもの。

 「それで、今はどういう状況なんだ?」

 「それが……先ほどから屯所内が騒がしくて。どうやらなにかの作戦が行われているようです」

 「作戦?」

 「はい。なにやら竜たちが大きな荷物を運んでどこかに飛んで行く姿も見えました」

 いったいフィランはなにをするつもりだろう。
 ラウルは首を傾げた。


 *


 その頃エリーシャの住まう塔からは、トンカントンカンとなにかを叩く音が響いていた。

 「すみませんねエレンさん」

 「いえいえ、団長は本当に加減ってものを知りませんから」

 フィランが異音を立てて壊した扉を修理するエレンに、ニナが申し訳なさそうに声をかける。
 いつもの溌剌とした彼女とは違い、眉尻を下げ、どうにも所在なさ気にしているのは、この騒ぎを起こすきっかけを作ってしまったという自覚があるからだろう。
 エリーシャは寝室に閉じこもってしまったらしく、室内は静まり返っていた。
 
 「よし、できましたよ!フィラン団長も、よりにもよって鉄の取っ手を壊すなんて」

 リノの手には、歪んで外れた取っ手が握られていた。

 「あの……フィラン様はどんなご様子で?」

 カサンドラの件ではフィランに食ってかかったと聞いて驚いたが、今のニナはリノの胸毛を触るようエリーシャに勧め、ふたりを更に仲違いさせてしまった手前、色々と気まずいのだろう。さっきからずっと落ちつきなく胸の前で手をもじもじとさせている。

 「実はその事でニナさんにお願いがあってきたんです」

 「お願い?」

 「はい。今夜姫様をバルコニーへ連れ出していただきたいのです」

 「姫様をバルコニーへ?」

 「ええ。そしてそこから先は、俺たちにすべて任せて欲しいのです。決して姫様を悲しませるようなことはしないと約束します」

 部屋に閉じこもるエリーシャを外に出すために、ニナの協力は必要不可欠。
 ニナは眉間にしわを寄せ随分と悩んでいたが、やがてなにかを決意したかのように頷いたのだった。


 
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