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外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編
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しおりを挟む『あなただってあのふたりの仲が壊れることを望んでたんじゃないの?』
(本当に嫌な女だ)
ラウルは深いため息を落とす。
カサンドラの言い放った言葉が図星だったからだ。
エリーシャを慰めながらも、ほんの少し気分が高揚していた。
もしかしたら、自分が入り込む隙間ができるかもしれないと。
けれど結局エリーシャはフィランでなければ駄目なのだ。
彼女が怒るのも泣くのも、すべては相手がフィランだから。
もしも相手がラウルだったなら──おそらくエリーシャがここまで心を乱すことはなかっただろう。
わかっていたことだ。
だが、わかっていても夢を見てしまった。
「でもなぁ……やっぱり無理だよ」
フィランとエリーシャは一対の翼。唯一の番。
入り込む隙間なんて最初からなかった。これまでも、そしてこれからも永遠に。
それは例え自分が先に出会っていたとしてもだ。
ラウルは自嘲気味に微笑み、ある場所へ向かった。
*
「……なんだこれは……」
気にかけていたベルーガの竜騎士たちの様子を見に屯所に立ち寄ったラウルは、エントランスホールの中央で行われている珍妙な儀式に出くわした。
緋色の騎士服に囲まれる上半身裸の男──リノが、なんと仲間から胸毛を剃り落とされていたのだ。深い密林のような胸毛に鋭利な剃刀の刃があてられるたび、リノの瞳には涙が溜まっていく。
「恨むなよリノ。こういうことはケジメが必要なんだ」
「うっ……うっ……!!」
ここでラウルはバラデュール公爵家の諜報員が仕入れてきた情報と、それを読んだあとの母親の言葉を思い出した。
【剛毛はいわばパッション……情熱と同じなのです!】
剛毛が彼らの情熱だとするならば、それを剃られるということは、命を取られるのと同じくらいつらいのではなかろうか。
いや、自分には到底わからない感覚だが、リノの顔を見る限り、解釈は間違っていない気がする。
しかしパッションを全剃りされなければならないほどのなにをしでかしたのか。
リノは皆を救うために命を差し出したというのに。
「おい、なにをしてる」
まさか仲間割れ?見せしめの毛剃り?
一瞬そんな考えが頭を過ったが、ベルーガの竜騎士たちからは予想だにしない答えが返ってきた。
「これはラウル殿!大変お見苦しいところをお見せしました。これはリノなりの罪滅ぼしなのです。どうか止めないでください」
「罪滅ぼしって……いったいなんの罪?」
「はい、エリーシャ殿下にこの胸毛を触らせ、その現場をフィラン殿に目撃された挙げ句ふたりを大喧嘩させた罪です」
「お前たち、俺をからかってるのか?」
──とんでもない!!
──ラウル殿をからかうなんて!
ベルーガの竜騎士たちは口々に声を上げた。
どうやら嘘ではないようだ。
(姫様がリノの胸毛を触った?なんで?)
訳がわからなすぎるラウルは、胸毛を半分削られてひんひん泣いてるリノに問い質す。
「リノ。まさかお前、エリーシャ姫に胸毛を触るよう強要したのか?」
「ち、違います!!侍女の方がノリノリで触ってこられて、それでエリーシャ殿下にもどうかと勧めたのです。この国の男性は体毛が薄いからと」
確かにこの国に剛毛の人間は少ない。
その中でもフィランは特に体毛が薄い部類に属する。
(姫様……!!)
ラウルは頭を抱えた。
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