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外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編
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しおりを挟む「待っていたって誰も来ませんよ」
竜舎の横で一人佇むカサンドラに、見かねたラウルが声を掛けた。
しかし彼女はあからさまに不快そうな顔をして、ラウルから目を背けた。
ベルーガの竜騎士たちは皆、仲間と運命を共にすることを望み、カサンドラの元には誰一人として残らなかった。
人質以外は本日中の出国が言い渡されている。つまり、カサンドラはひとりで本国に帰るしかないのだ。
「もしかしてフィランが来るとでも思っているのですか?残念でしたね、あいつは今エリーシャ姫のところにいますよ」
ラウルらしくない、突っかかるような物言い。
それもそのはず、ラウルはカサンドラがエリーシャに働いた暴力を決して許すつもりはないからだ。
「あなたのせいで、大勢の人間が迷惑を被った。この結果は、人の幸せを壊そうとした報いです」
「よく言うわね。あなただってあのふたりの仲が壊れることを望んでたんじゃないの?あなたもフィランも……あんな女のどこがいいんだか」
あんな女──その言葉にはエリーシャへの嘲りが込められていて、カサンドラの本心がよく表れていた。
「美しさも強さも、女としてなにもかも私のほうが優れているというのに……フィランだって、今日のことをいつの日か必ず後悔するわ」
「有り得ない」
ラウルは即答した。
「なにもかも自分の方が上だと思っているのはあなただけだ。エリーシャ姫を知る人間からは、正反対の答えが返ってくるだろう。美しさも強さも、なにもかもエリーシャ姫の方が上だと」
確かにエリーシャは身体は弱いし心は傷つきやすい。しかしそれは本当の意味での弱さとは違う。
そして彼女には自分に関わる人間すべての人生を抱え込む度量がある。リノがいい例だ。
リノが牢屋ではなくエリーシャの部屋に向かったと聞き、ラウルは苦笑した。
エリーシャがついていれば、リノはきっとこの国に自分の居場所を見つけることができるだろう。
エリーシャは決して誰も見捨てない。
人も竜も動物も、すべてのものを愛で包む。それが彼女の強さだ。
「本来ならリノではなくあなたが牢屋に繋がれるはずだったんだ。仲間を見捨て、陛下とエリーシャ姫の温情で助かった身だというのに……感謝こそすれ、エリーシャ姫に悪態をつくとは恥知らずにも程がある」
ラウルの言葉にカサンドラは口惜しそうに顔を歪め、唇を噛んだ。
「……フィランが“戦争”の二文字を口にしましたが、俺も同じ気持ちです。そちらの出方次第では、地上からは俺が、空からはフィランがベルーガに向けて先陣を切ることになると覚悟しておいてください」
「……っ!!」
「ベルーガ国王……あなたのお父上が、娘が他国で働いた暴挙に対し、まともな判断を下されることを切に願います」
その言葉を最後にラウルが踵を返すと、彼の背後で翼のはためく音と共に風が巻き起こった。
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