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外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編
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しおりを挟む「私はこんな身体ですが、それでもずいぶん健康になったんです」
以前のエリーシャなら、このような場所に居合わせただけで倒れていただろう。
それに健康になっただけではない。
狭い世界で生きていたエリーシャに、たくさんの事を教えてくれた人たちがいる。
その最たる存在はフィランと、彼を通して知り合った騎士たちだ。
「私は皆さんのように志を同じくする訳でも、共に戦場を翔ける訳でもありません。それでもこんな私に温かく接してくれる騎士たちは家族と同じようなもの……いえ、時にはそれ以上の存在になり得ます。私には、カサンドラ様のその態度が理解できません。どうしてなりふり構わず彼らを守ろうとしないのか」
見下していた女から説教なんて、これ以上の屈辱はないだろう。
自分たちだけの問題でなくなってしまった以上、対等な立場で話し合う事はできないが、それがかえってよかったかもしれない。
周りに人がいることで、お互い冷静に話しをする事ができるはず。
「先ほどの言葉では、カサンドラ様が何に対して謝罪されているのかわかりません」
エリーシャは努めて冷静に話し続けた。
「まずはあなたのどのような行いが軽率だったのかはっきりと説明した上で、私に謝っていただけませんか?もちろん心から」
フィランへの横恋慕。そしてエリーシャへの激しい嫉妬から犯してしまった罪。
それらをすべて、包み隠さず自ら公の場で明らかにし、謝罪する事ができたなら、少しは見直してあげてもいい。
しかし、カサンドラはエリーシャの問いに答えようとはせず、唇を引き結び床に目線を落としたまま。
「申し訳ございませんでした!」
広間に木霊するほど大きな声の主は、カサンドラの斜め後ろに控えていたリノだった。
「本来であれば私が命を懸けてでもカサンドラ様をお止めしなければならなかったのです!すべては私の責任です。罰ならばどうか私に……!!」
リノは両手を付き、床に額を擦り付けるようにして訴えた。
しかし、誰の目から見ても今回の件が彼のせいでないことは明らかだ。
リノだってわかっているだろう。
それでも尚、主を守ろうとするその姿に、周囲は同情の目を向けた。
(仲間が自分のためにここまでしているのに……!)
まさか、臣下が自分のために命を捨てるのは当たり前だとでも思っているのだろうか。
それでも何もしようとしないカサンドラにエリーシャは腸が煮えくり返るようだった。
「わかりました」
エリーシャの声に広間は静まった。
「それではリノ、望み通りあなたの命を貰い受けましょう。カサンドラ王女、今回の事はそれで和解として差し上げます。リノ、こちらへ」
「なっ……リノ、待ちなさい!!」
立ち上がり、エリーシャに向かって歩を進めたリノにカサンドラは慌てて手を伸ばした。
しかしリノはその手から逃れるように身を躱した。
「カサンドラ様……このまま本国へ帰ったところで、俺たちが何の処罰も受けないなんて有り得ません。……どうか、何があっても仲間たちは守ってやってください」
リノはカサンドラにそう言い残すと、衛兵に連れられて扉の向こう側へと消えていった。
エリーシャは傷ついた様子のカサンドラに、冷たい声で言い放った。
「カサンドラ王女、例えリノの命がどうなろうとも、すべては往生際の悪いあなたのせいです。和解といっても、今回の件についてはベルーガ国王にきちんと詳細を伝えさせていただきますから」
まさかエリーシャがこんな苛烈な事をしてのけるとは微塵も思っていなかった国王は、驚きながらも娘の考えを尊重した。
「これまでベルーガとは良い付き合いをしてきただけに、非常に残念だ。ベルーガ騎士団は出国までの間監視をつけさせて貰う」
父の言葉が終わるなり、エリーシャはひとり広間を出た。
カサンドラがどんな顔をしていたのか見ることもなく。
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