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外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編
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しおりを挟むフィランは、カサンドラとの出会いを語り始めた。
「屈強な男たちの中に混じって剣を振るい、戦うことを恐れもしない。しかもそれがベルーガの王女だというのだから……最初は本当に驚きました」
その頃はカサンドラの想いなど知る由もなかったフィランは、何かと自分を気にかけ側に寄ってくる彼女のことを“変わった人だ”程度にしか思っていなかった。
なぜなら気難しいフィランと友達になろうとするような人間はいなかったから。
それだけではない。
その頃、フィランの心の中には既にエリーシャの存在が大きく色濃く根付いていたし、そもそも他人に興味を持たない性分なので、カサンドラに女性としての興味がまるで湧かなかったのだ。
「けれど何度も何度も話し掛けられて、返事をしているうちに気安く言葉を交わすようになりました。カサンドラ王女も身分の垣根を超える付き合いを周囲に望んでいたので……これは私だけに対するものではなく、竜騎士団に属するすべての者に望んでいるのだと思いました。だから自然と友人のような関係に……」
そこに邪なものはないと信じていた。
カサンドラは竜騎士として、自分たちと真の同志になろうとしているのだと。
当時は、そんな彼女の姿勢に尊敬の念すら抱いたほどだ。
「……今回の遠征でも、私のあなたへの気持ちをよく聞いてくれました。……そしてあの浅緋の竜を我が国に引き渡す件についても、快く了承してくれて……だから私は、彼女に心から感謝していたんです。その本当の胸の内などまったく気付かずに……私が愚かでした」
まさか、カサンドラがエリーシャを陥れようとしているなんて。
エリーシャへの愛の深さを語るフィランに、うんうんと笑顔で頷きながら耳を傾け、最終的に無茶な願いも聞き入れてくれたあの姿がすべて偽りだったなんて。
「私が誰かと打ち解けるなんて、しかもそれが女性で……あなたからしたら信じられない出来事だったでしょう。すみませんでした……けれど信じてください。彼女は私にとって女性という括りには入らない。リシャ、私にとって女性はあなただけ。あなた以外いないんです」
「……ならどうして、会いにきてくれなかったの?」
「浅緋の竜の状態が悪くて離れられなかったというのもあります……けれど一番の理由は、あなたを驚かせてあげたかった……私にしかできない贈り物をあなたにあげたかったんです。けれどあなたの顔を見てしまうと離れられなくなってしまう。微笑む顔を見たら黙っていられなくなる……馬鹿だと笑ってください。あなたの喜ぶ顔が見たかった……ただそれだけだったんです」
フィランは自分の気持ちを言葉で伝えることが苦手だ。
だから、ここでいくら言葉を尽くしても、エリーシャにわかってもらえることはできないかもしれない。
けれど帰路でのやり取りから、どんなに時間がかかっても、エリーシャが納得してくれるまでは伝え続けなければならないと思っていた。
「……もしも私と出会っていなかったら、フィーはあの人と一緒になっていたんじゃないの……?」
エリーシャの問いに、フィランはどう返したらいいのかわからなかった。
これまで、“エリーシャと出会わなかったら”なんてそんなこと、考えたこともない。
だが、自分だって貴族の端くれだ。有り得ない話ではない。
エリーシャと出会わず、貴族の一員としてカサンドラとの縁談が持ち上がったとしたら……
「……この国に生きる貴族のひとりとして、命じられればそういう道もあったかもしれません。だが例えそうだとしても、リシャに抱くような気持ちをカサンドラ王女に抱くことは決してなかったでしょう」
「どうしてそんなこと断言できるの?」
「それは……私だって知りたい。あなたはどうしてこんなにも私の心をかき乱すのか。あなたに捨てられたら私は正気を保つこともできないでしょう」
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