【本編完結】病弱な三の姫は高潔な竜騎士をヤリ捨てる

クマ三郎@書籍発売中

文字の大きさ
上 下
109 / 121
外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編

48

しおりを挟む




 フィランは、カサンドラとの出会いを語り始めた。

 「屈強な男たちの中に混じって剣を振るい、戦うことを恐れもしない。しかもそれがベルーガの王女だというのだから……最初は本当に驚きました」

 その頃はカサンドラの想いなど知る由もなかったフィランは、何かと自分を気にかけ側に寄ってくる彼女のことを“変わった人だ”程度にしか思っていなかった。
 なぜなら気難しいフィランと友達になろうとするような人間はいなかったから。
 それだけではない。
 その頃、フィランの心の中には既にエリーシャの存在が大きく色濃く根付いていたし、そもそも他人に興味を持たない性分なので、カサンドラに女性としての興味がまるで湧かなかったのだ。

 「けれど何度も何度も話し掛けられて、返事をしているうちに気安く言葉を交わすようになりました。カサンドラ王女も身分の垣根を超える付き合いを周囲に望んでいたので……これは私だけに対するものではなく、竜騎士団に属するすべての者に望んでいるのだと思いました。だから自然と友人のような関係に……」

 そこに邪なものはないと信じていた。
 カサンドラは竜騎士として、自分たちと真の同志になろうとしているのだと。
 当時は、そんな彼女の姿勢に尊敬の念すら抱いたほどだ。

 「……今回の遠征でも、私のあなたへの気持ちをよく聞いてくれました。……そしてあの浅緋の竜を我が国に引き渡す件についても、快く了承してくれて……だから私は、彼女に心から感謝していたんです。その本当の胸の内などまったく気付かずに……私が愚かでした」

 まさか、カサンドラがエリーシャを陥れようとしているなんて。
 エリーシャへの愛の深さを語るフィランに、うんうんと笑顔で頷きながら耳を傾け、最終的に無茶な願いも聞き入れてくれたあの姿がすべて偽りだったなんて。

 「私が誰かと打ち解けるなんて、しかもそれが女性で……あなたからしたら信じられない出来事だったでしょう。すみませんでした……けれど信じてください。彼女は私にとって女性という括りには入らない。リシャ、私にとって女性はあなただけ。あなた以外いないんです」

 「……ならどうして、会いにきてくれなかったの?」

 「浅緋の竜の状態が悪くて離れられなかったというのもあります……けれど一番の理由は、あなたを驚かせてあげたかった……私にしかできない贈り物をあなたにあげたかったんです。けれどあなたの顔を見てしまうと離れられなくなってしまう。微笑む顔を見たら黙っていられなくなる……馬鹿だと笑ってください。あなたの喜ぶ顔が見たかった……ただそれだけだったんです」

 フィランは自分の気持ちを言葉で伝えることが苦手だ。
 だから、ここでいくら言葉を尽くしても、エリーシャにわかってもらえることはできないかもしれない。
 けれど帰路でのやり取りから、どんなに時間がかかっても、エリーシャが納得してくれるまでは伝え続けなければならないと思っていた。

 「……もしも私と出会っていなかったら、フィーはあの人と一緒になっていたんじゃないの……?」

 エリーシャの問いに、フィランはどう返したらいいのかわからなかった。
 これまで、“エリーシャと出会わなかったら”なんてそんなこと、考えたこともない。
 だが、自分だって貴族の端くれだ。有り得ない話ではない。
 エリーシャと出会わず、貴族の一員としてカサンドラとの縁談が持ち上がったとしたら……

 「……この国に生きる貴族のひとりとして、命じられればそういう道もあったかもしれません。だが例えそうだとしても、リシャに抱くような気持ちをカサンドラ王女に抱くことは決してなかったでしょう」

 「どうしてそんなこと断言できるの?」

 「それは……私だって知りたい。あなたはどうしてこんなにも私の心をかき乱すのか。あなたに捨てられたら私は正気を保つこともできないでしょう」




 
しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

褒美だって下賜先は選びたい

宇和マチカ
恋愛
お読み頂き有り難う御座います。 ご褒美で下賜される立場のお姫様が騎士の申し出をお断りする話です。 時代背景と設定をしっかり考えてませんので、部屋を明るくして心を広くお読みくださいませ。 小説家になろうさんでも投稿しております。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

出生の秘密は墓場まで

しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。 だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。 ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。 3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

処理中です...