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外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編

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 「フィー!待って、このままじゃ駄目よ。私のために戦争なんて……そんなことやめて!」

 フィランの腕の中から必死で訴えるが、どうやら聞く気はないようだ。
 彼はエリーシャの身体を抱えたままノエルの背に乗り込む。

 飛び立つ瞬間、上昇するノエルの背から見えたのは、未だ崩れ落ちたままのカサンドラと、浮かぬ顔でこちらを見つめるラウルだった。


 「お願いフィー!私の話しを聞いて!」

 経験上、一度こうなったらまったく人の話しを聞かないフィランだが、意外なことに今回はすんなり返事が返ってきた。

 「喋らないで……頬がとても腫れているから痛むでしょう……」

 確かに、口を動かすだけで頬の痛みは倍増する。
 
 「今は私の頬よりも、あなたの言った言葉について話し合うのが先よ。ベルーガと戦争なんて、まさか本気で言った訳じゃないわよね?」

 いつもなら、目を合わせさえすれば、彼の心の中をほんの少しだが推し量ることができた。けれど今の彼がなにを考えているのか、エリーシャには読み取ることができない。

 「あなたはこの国の王女だ。そして第一王女レオノール殿下が王位継承権を放棄した今、あなたは王位継承順位第二位の存在です。しかもあなたに暴力を振るったのはベルーガの王族だ。これが国家間の問題に発展するのは当たり前のことです」

 「確かにそうだけど、私は戦争なんて望まないわ。元はと言えば、これは私とあなたの問題でしょう?お願いだからどうか事を大きくしないで」

 戦争が起これば我が国もベルーガも、お互いに無傷では済まない。そしてその最前線に立つのは他の誰でもない、フィランとラウルだ。
 たとえ問題を起こしたのが王族といえど、女同士の小競り合いが原因で民の命が犠牲になるなんて、決してあってはならない。
 けれど……王族として失格だと思われても、エリーシャが一番望まないことは──

 「……あなたが危険な目にあうのは嫌なの……ただ待つことしかできないのは、とてもつらいのよ……」

 フィランはぐ、となにかを堪えるように眉根を寄せ、唇を引き結んだ。
 あれだけ悪態をついておきながら、今さらどの口がと思う。
 けれど、これは紛れもないエリーシャの本心だった。

 「どうしても国家間の問題になるというのなら、どうか争う以外の方法にして?謝罪なり……それでも済まないというのなら、ベルーガに賠償を求めてもいいわ。戦争はひとりでするものじゃない……私のために民が……罪もない人が傷つくのは嫌なの」

 自分が甘いことを言っているのはわかっている。
 今回のことが看過されれば、ベルーガに舐められる恐れだってあることも。

 「でもお願い……お願いだから、フィー……」

 「……なぜですか。これだけの目にあわされて、あなたはカサンドラ王女に対し、なんの感情も湧かないのですか?」

 フィランは思い違いをしている。
 エリーシャは決して寛大な女などではない。

 「そんな訳ないじゃない……カサンドラ王女のことは許せないし……大嫌いよ」

 【大嫌い】
 こんな言葉を口にするのは初めてのことだ。
 だってこれほどまでにエリーシャの感情を逆撫でする存在は、どこにもいなかったから。

 「でも……それはカサンドラ王女だけのことじゃない。私は同じくらいあなたのことも許せなかった。だから、彼女だけを責め立てるのは違うわ!」

 


 

 
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