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外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編
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しおりを挟む「……フィラン様が私に宛てた手紙を彼の部下から取り上げ、故意に捨てられたと聞きました。なぜそんなことをなさったのか、教えていただけますか?」
エリーシャの問いにカサンドラは瞠目した。
しばらく待ってみたが、口を開く様子もない。
すぐに答えられないどころか、口を噤むあたり。
疑っていたわけではないが、バラデュール公爵家の諜報員の報告はやはり事実なのだ。
カサンドラは、城を開けていたエリーシャがそのことを知っているなんて、夢にも思わなかっただろう。
──自分が卑怯な手を使ったことを認めたくないのかしら
それならば、もっとうまく取り繕えばいいものを。
「それで、フィラン様はあなたに対してなんと?」
カサンドラはエリーシャを睨め上げ、歯噛みしている。
おそらく、フィランからは拒絶されたはず。
そうだ。エリーシャの知るフィランはそういう人だった。高潔。その言葉が似合う唯一の人だと。
──どうして忘れてしまっていたのだろう
これまで、カサンドラは明らかにエリーシャのことを見下していた。
宴席での勝ち誇ったような余裕の笑み。
それはカサンドラがフィランと結ばれたからなのだとばかり思っていた。しかし実際はエリーシャを陥れることに成功し、笑いが止まらなかっただけなのだろう。
【因果応報】とはよく言ったものだ。
カサンドラは今回のことでフィランやその周りを失望させた。そしてあとがなくなった彼女に残されたのが、エリーシャにフィランを諦めるよう直談判することだった……といったところだろうか。
──悔しい……こんな人にいいようにされていたなんて……
けれど、エリーシャは彼女を責めきれなかった。
だって、彼女はこんな風になりふり構わず突き進めるほどに、強くフィランを愛しただけなのだから。
自分にしたことは許せない。
けれど、どんな手を使ってでもあの人が欲しいのだというその気持ちだけは、エリーシャにも痛いほどわかるのだ。
「うるさいわね……他の男の家に逃げ込んだあなたがなにを偉そうに言ってるのよ!」
「我がバラデュール公爵家は、錯乱した竜に連れ去られたエリーシャ姫を保護しただけです!失礼な言い方はお控えください!!」
──さ、錯乱した、竜!?
咄嗟に口を挟んだラウルは、最大限エリーシャをフォローしたつもりなのだろうが、それではノエルがあまりにも可哀想すぎる。仮にもこの国最強と謳われる竜騎士団長に選ばれた稀少な竜なのに。
まあ、カサンドラはエリーシャがどの竜に乗って城出したのかまでは知らないだろうから、ノエルに変な噂は立たないとは思うが。
エリーシャは鼻から深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
「私は……フィラン様がカサンドラ様を選んだのだと……そう思い込んでしまいました。もちろんあなたも私がそう思うように仕向けたのでしょうが、なによりフィラン様の様子がいつもとまるで違った……だから、私は怖くて逃げ出したんです。彼から……そして彼と向き合うことから」
「それは、フィランとの信頼関係がまるで築けていないということでしょう?私はあなたとは違うわ。彼とは長年、友好関係にあるお互いの国の竜騎士団を束ねる者として、パートナーのような関係だった。共に厳しい戦場を駆けたことだってあるわ。あなたよりも強い絆が私たちにはあるのよ!だから、早くフィランを解放してちょうだい!あなたのそばにいることは、フィランはもちろんのこと、あなたのためにもならないわ」
「なぜです……?なぜ、フィラン様が私のそばにいることが、お互いのためにならないのですか?」
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