【本編完結】病弱な三の姫は高潔な竜騎士をヤリ捨てる

クマ三郎@書籍発売中

文字の大きさ
上 下
84 / 121
外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編

24

しおりを挟む



 
 まるで鈍器で頭を殴られたような衝撃に見舞われ、フィランはその場に立ち尽くす。
 エリーシャはいつも優しく微笑み、フィランがどんなわがままを言っても許してくれた。
 愛しくて愛しくてたまらなくて、それは当然彼女もそう思ってくれていて、死が二人を分かつまでは、いや、たとえ死が二人を引き離そうともその想いだけは永遠に続くものだと思っていた。
 それほどにエリーシャと自分は、お互いが唯一無二の存在であったはずなのに。
 
 「大丈夫ですかラウル様?騎士団の皆さんも……早く手当てをしないと!」
 
 けれど今、愛する人の目に自分は映っていない。
 心配そうにラウルを見つめるエリーシャ。
 その瞳に映るのは自分だけのはずなのに。
 【これは誰でもない。フィラン、あなたの責任よ】
 シャローナに言われた言葉が頭の中に浮かび、再びフィランの心を抉った。

 「動ける方はいますか!?」

 エリーシャはラウルの無事を確認したあと立ち上がり、周りに声を掛けた。
 その呼びかけに、屍同然だった団員らが即座に立ち上がった。

 「手当てをしますから、重症の方から先にこちらへ……!」

 エリーシャの指示により、次々と庭園に面したテラスに運ばれて行く団員たち。
 その場にいた全員がエリーシャを目で追っている。
 そんな中フィランは見てしまった。朝の光の下、輝くばかりに美しいエリーシャを眩しそうに見つめるラウルの表情を。

 「……ラウルお前……まさかリシャのことを……?」

 ラウルは僅かに表情を歪めたあとフィランから顔をそらし、なにも言わずエリーシャの元へと歩いていった。
 信じられない気持ちで再び呆然とするフィラン。見かねたノエルはぐわっと大きく口を開け、フィランの胴を咥えた。
 頭蓋骨固めのお返しに、若干牙を立ててみたものの、フィランは全くの無反応。
 
 「ピイィィィ終わったな……」

 そしてノエルは翼を広げ空へと飛び立った。
 フィランはエリーシャのいる場所をバラデュール公爵邸が見えなくなるまで見つめていたが、彼女がこちらを振り返ることはなかった……
 

 **


 フィランが宴会場を飛び出したあと、王城は大変な騒ぎとなっていた。
 カサンドラが、王族であるエリーシャ宛のフィランの手紙を故意に破棄し、それが元でエリーシャと、それを追いかけたフィランまで姿を消したのだ。
 おまけにこんな時に限ってラウルからの緊急召集により騎士団は不在。
 城の守りが手薄になり、竜騎士団の面々はエリーシャとフィランの捜索に割く人員もなく、ただひたすらに二人の帰りを待ちながら夜を明かしたのだ。

 「……やっぱり俺、探しに行ってくるよ!」

 「やめろエレン。お二人の行き先もわからないのに、闇雲に捜し回るのは時間の無駄だ」

 同期に窘められるも、じっとしてなんかいられない。
 エレンは己の軽率な行動を心の底から後悔し、反省していた。
 フィランからエリーシャへの手紙を受け取ったあの日、なんと言われようとカサンドラへは渡さずに、自分自身の手で届けなければならなかった。
 (そうすればお二人が苦しむこともなかったのに……!)

 「おい!ノエルだ!ノエルが帰って来たぞ!」

 竜騎士団一視力の良いカイが空を指差して叫んだ。項垂れていたエレンはすぐさま顔を上げ、カイの指差す方向へと視線を向けた。すると、一面に広がる青い空の先から見えたのは、眩いばかりに輝く銀色の鱗。間違いない、あれはノエルだ……が、しかし
 (あれ……?)
 エレンはノエルの顔面に異変を感じた。

 「ノエルがなにか咥えてるぞ!?」

 エレンにはまだそれがなんなのかは判別できなかったが、カイの言う通り、ノエルの口には確かになにかが咥えられている。 

 「……え……?」

 そしてノエルが降下を始める寸前カイは絶句した。
 なぜならノエルが口に咥えて帰ってきたのが放心状態のフィランだったからだとみんなが気づくまで、あと一分。

 





 
しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

美人な姉と『じゃない方』の私

LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。 そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。 みんな姉を好きになる… どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…? 私なんか、姉には遠く及ばない…

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

出生の秘密は墓場まで

しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。 だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。 ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。 3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

処理中です...