【本編完結】病弱な三の姫は高潔な竜騎士をヤリ捨てる

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外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編

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 まるで鈍器で頭を殴られたような衝撃に見舞われ、フィランはその場に立ち尽くす。
 エリーシャはいつも優しく微笑み、フィランがどんなわがままを言っても許してくれた。
 愛しくて愛しくてたまらなくて、それは当然彼女もそう思ってくれていて、死が二人を分かつまでは、いや、たとえ死が二人を引き離そうともその想いだけは永遠に続くものだと思っていた。
 それほどにエリーシャと自分は、お互いが唯一無二の存在であったはずなのに。
 
 「大丈夫ですかラウル様?騎士団の皆さんも……早く手当てをしないと!」
 
 けれど今、愛する人の目に自分は映っていない。
 心配そうにラウルを見つめるエリーシャ。
 その瞳に映るのは自分だけのはずなのに。
 【これは誰でもない。フィラン、あなたの責任よ】
 シャローナに言われた言葉が頭の中に浮かび、再びフィランの心を抉った。

 「動ける方はいますか!?」

 エリーシャはラウルの無事を確認したあと立ち上がり、周りに声を掛けた。
 その呼びかけに、屍同然だった団員らが即座に立ち上がった。

 「手当てをしますから、重症の方から先にこちらへ……!」

 エリーシャの指示により、次々と庭園に面したテラスに運ばれて行く団員たち。
 その場にいた全員がエリーシャを目で追っている。
 そんな中フィランは見てしまった。朝の光の下、輝くばかりに美しいエリーシャを眩しそうに見つめるラウルの表情を。

 「……ラウルお前……まさかリシャのことを……?」

 ラウルは僅かに表情を歪めたあとフィランから顔をそらし、なにも言わずエリーシャの元へと歩いていった。
 信じられない気持ちで再び呆然とするフィラン。見かねたノエルはぐわっと大きく口を開け、フィランの胴を咥えた。
 頭蓋骨固めのお返しに、若干牙を立ててみたものの、フィランは全くの無反応。
 
 「ピイィィィ終わったな……」

 そしてノエルは翼を広げ空へと飛び立った。
 フィランはエリーシャのいる場所をバラデュール公爵邸が見えなくなるまで見つめていたが、彼女がこちらを振り返ることはなかった……
 

 **


 フィランが宴会場を飛び出したあと、王城は大変な騒ぎとなっていた。
 カサンドラが、王族であるエリーシャ宛のフィランの手紙を故意に破棄し、それが元でエリーシャと、それを追いかけたフィランまで姿を消したのだ。
 おまけにこんな時に限ってラウルからの緊急召集により騎士団は不在。
 城の守りが手薄になり、竜騎士団の面々はエリーシャとフィランの捜索に割く人員もなく、ただひたすらに二人の帰りを待ちながら夜を明かしたのだ。

 「……やっぱり俺、探しに行ってくるよ!」

 「やめろエレン。お二人の行き先もわからないのに、闇雲に捜し回るのは時間の無駄だ」

 同期に窘められるも、じっとしてなんかいられない。
 エレンは己の軽率な行動を心の底から後悔し、反省していた。
 フィランからエリーシャへの手紙を受け取ったあの日、なんと言われようとカサンドラへは渡さずに、自分自身の手で届けなければならなかった。
 (そうすればお二人が苦しむこともなかったのに……!)

 「おい!ノエルだ!ノエルが帰って来たぞ!」

 竜騎士団一視力の良いカイが空を指差して叫んだ。項垂れていたエレンはすぐさま顔を上げ、カイの指差す方向へと視線を向けた。すると、一面に広がる青い空の先から見えたのは、眩いばかりに輝く銀色の鱗。間違いない、あれはノエルだ……が、しかし
 (あれ……?)
 エレンはノエルの顔面に異変を感じた。

 「ノエルがなにか咥えてるぞ!?」

 エレンにはまだそれがなんなのかは判別できなかったが、カイの言う通り、ノエルの口には確かになにかが咥えられている。 

 「……え……?」

 そしてノエルが降下を始める寸前カイは絶句した。
 なぜならノエルが口に咥えて帰ってきたのが放心状態のフィランだったからだとみんなが気づくまで、あと一分。

 





 
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