【本編完結】病弱な三の姫は高潔な竜騎士をヤリ捨てる

クマ三郎@書籍発売中

文字の大きさ
上 下
83 / 121
外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編

23

しおりを挟む







 (くそっ……!)
 フィランと直接剣を交えるのは初めてだったが、その予想以上の実力にラウルは苛立っていた。
 いや、苛立つのは剣の腕だけのことではない。本当はずっと腹立たしく思っていたのだ。
 国王陛下が溺愛してやまないという病弱な三の姫エリーシャ。塔から一歩も出ずに暮らすその姫のことをラウルは名前しか知らなかった。だからオムニブス修道院を巻き込んだあの騒動の後、初めて彼女を見たときは言葉を失ってしまった。まさかあんなに美しく愛らしい人がこの世に存在していたなんて。
 聞けばエリーシャ姫とフィランは、長い間お互いを想い合っていたのだというではないか。
 本音を言えば気落ちした。しかし相思相愛の二人を祝福する気持ちに嘘偽りもなかった。
 だってエリーシャはフィランを愛していて、あの唐変木のフィランも姫を愛しているというのだ。絵に書いたような幸福な二人を邪魔しようなんて気は、ラウルにはこれっぽっちもなかった。
 フィランの愛に包まれて、エリーシャはどんどん健康になっていった。屯所周りを散歩する彼女は騎士団員全員の憧れだった。
 『ラウル様ー!』
 偶然を装って現れるラウルに屈託のない笑顔を向け、名前を呼んでくれた。
 それだけで十分……ただそれだけで十分だった。なのにそう思えなくなったのはフィランのせいだ。
 ずっと見つめていたからわかる。エリーシャがなにに悩み、苦しんでいたのか。
 だがそれでも弱った心につけこむような卑怯な真似はしたくない。黙って見守るつもりだったのに……
 
 「お前の負けだ」

 目の前に剣を突き付けられたラウル。
 だがここで引くという選択肢はなかった。
 (らしくないが、足掻いてみるか)
 再び剣を握る手に力を込めたその時だった。

 「やめてーっ!」

 予想もしなかった人物の声に、フィランもラウルも声のした方へ顔を向ける。

 「リシャ!!」
 「姫!!」

 二人が叫んだのはほぼ同時だった。
 桃色がかった金の髪を揺らしながら、こちらへ向かって走って来るエリーシャ。フィランは剣を投げ捨てて駆け出した。
 しかしエリーシャはフィランの横をすり抜けて、地面に倒れているラウルの元へと駆け寄った。

 「ああ……なんてこと……!私のせいでこんな……!」

 エリーシャは、今にも泣き出しそうな顔でラウルの上半身を起こした。

 「リ、リシャ……」

 フィランはその様子を驚愕の表情で見つめている。

 「どうして……どうしてこんな酷いことを……ラウル様は行くあてのない私に手を差し伸べてくださっただけなのに……!」

 その瞳には涙が浮かんでいる。

 「リシャ!すべては誤解なんです!私の話を聞いてください!」

 「……聞きたくありません」

 「リシャ!?」

 「帰ってください……帰って!あなたの話なんて聞きたくありません!」

 



 
しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

褒美だって下賜先は選びたい

宇和マチカ
恋愛
お読み頂き有り難う御座います。 ご褒美で下賜される立場のお姫様が騎士の申し出をお断りする話です。 時代背景と設定をしっかり考えてませんので、部屋を明るくして心を広くお読みくださいませ。 小説家になろうさんでも投稿しております。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

出生の秘密は墓場まで

しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。 だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。 ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。 3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

処理中です...