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外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編
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しおりを挟む遠征で出会った浅緋色の美しい雌竜にフィランは目を見開いた。
細身のその身体を覆う鱗は月の光に透けて、より儚く輝いた。
浅緋に当たる銀の光はその鱗を桃色に変える。
『リシャ……!!』
それはフィランに与えられた唯一無二の奇跡。
エリーシャそのもののような竜だった。
***
宴会は賑やかに進み、喜びの理由はそれぞれ違えどフィランも団員達も上機嫌だった。
「そんなに飲むなんて珍しいわね。」
隣のカサンドラがからかうように話し掛ける。
彼女と初めて知り合ったのはもう十年以上も前の事。王女という身分にも関わらず、女だてらに気性の荒い竜を乗りこなし、戦場にも出る。そのストロベリーブロンドの髪は血生臭い場所でもよく映えた。
同じ竜騎士団同士交流があり、何かとよく話し掛けてくるものだから、自然と気安く接する仲になった。フィランにしては珍しい事である。
「ああ、戻って来てから気の休まる事が無かったからな。」
あの浅緋の竜をどちらの国が所有するか。
見つけたのはフィランとカサンドラ。
フィランはエリーシャのようなその美しい浅緋の雌竜がどうしても欲しかった。
だから必死でカサンドラに頼み込んだのだ。
しかし連れ帰ったその日から雌竜の様子は急変した。
野生の竜は急激な環境の変化に耐えられず死んでしまうものもいる。
エリーシャの元へ戻りたかったが、どうしても、一時でも雌竜から目を離せなかった。
この竜をエリーシャに捧げたかったから。
エリーシャは竜に乗り、空を翔ける事に何よりも憧れている。
だからこのエリーシャにそっくりな雌竜を彼女の竜にと思ったのだ。
『ちょうどいいじゃない。あなたわかりやすいし、彼女の顔を見たらどうせ言っちゃうでしょ?びっくりさせたいならこの子を渡す日まで会わない方がいいわ。』
『そんな訳には行かない。この竜の事は内緒にするが、顔を出せない事はきちんと伝える。』
『フィランあなた、お姫様の事が本当に好きなのね……ふふ、感謝しなさいよ?こんな珍しい竜をあっさり譲ってあげたんだから。』
『カサンドラ……本当に今回の事は何と礼を言ったらいいのか……』
『いいのよ。あなたの気持ちはよくわかってるから。でもまだこの事はエリーシャ姫には黙っていた方がいいわ。……心を痛めてしまうかもしれないから。』
自分のために無理に竜を譲らせたなんて、優しいエリーシャが聞けばきっと切ない思いをする。
『……わかってる。姫にはまだ言わない。だけど時が来たらきちんと話そうと思ってる。』
『私もこれがバレたら父上に叱られるわね。』
『その時は私も一緒に謝るから。だから大丈夫だ。』
『ふふ。頼りにしてるわ。』
しかしこの時のフィランは知らなかった。
エリーシャへの手紙が届いていなかった事を。
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