【本編完結】病弱な三の姫は高潔な竜騎士をヤリ捨てる

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外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編

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 「ノエル!!」

 「ピィ!?」

 ノエルの暮らす竜舎は敷地の奥、緑豊かで風通しの良い場所に建っている。ここにいるのはとりわけ知能の高い優秀な成竜で、竜舎と言っても檻は無く、基本的に自由な生活を送っているのだと以前フィランから教えて貰った。
 ノエルは竜舎の中ではなく夜空がよく見える開けた場所で、翼を折りたたみ身体を横たえていた。重たそうな瞼。どうやらウトウトしていたようだ。

 「ごめんねノエル。眠ってた?」

 「ピィィイ。ピ!」

 ノエルは“大丈夫。気にするな!”とでも言うように首を上げ、エリーシャに座るよう顔で促した。
 エリーシャはノエルの側に座るとその身体に両手を広げぎゅうっと抱きついた。

 「ピィ……?」

 エリーシャの様子がいつもと違う事に気付いたノエルは顎で優しく小さな頭を撫でた。
 
 (やっぱりノエルは優しいわ……それに比べてあの男共は……!)
 フィランのみならずノヴァまでエリーシャを裏切ったのだ。
 毎日毎日膝の上に乗せてミルクを飲ませた。歌もたくさん歌った。溢れんばかりの愛情を込めて接してきたエリーシャは、言わばノヴァの母親代わりだ。母を裏切るなんて許せない。エリーシャはさっきまでの切ない気持ちが一転激しい怒りに頭が沸騰しそうだった。

 「聞いてくれるノエル?」

 ノエルに愚痴を言ってもどうしようもないのはわかっている。
 けれど今の自分の気持ちを素直に相談できて、そしてそれを理解し肯定してくれるのはノエルしかいないと思ったのだ。

 「ピィイ。」

 ノエルは話してごらんと言うようにエリーシャに顔を向けた。

 「あのね………」


 *


 「……ビィィィ………」

 すべてを話し終えたエリーシャに、ノエルは低く長いうめき声を発した。

 「……うっ……酷いでしょ?……うぅっ……!」

 話しているうちに悲しくなってしまったエリーシャは、周りに誰もいないせいもあり滂沱の涙を流しながら泣いた。
 堰を切ったように我慢していた思いが溢れ出す。

 「……このままただ捨てられるのを待つしか出来ないなんて辛すぎるわ……それならいっそどこかに消えてしまいたい……!!」

 ノエルの脳裏にあの日の……オムニブス修道院へ向かう前のエリーシャの顔が浮かぶ。
 あの時は晴れやかな笑顔だった。
 だが今は違う。苦しんで苦しんで、どこにも居場所の無い子供のように泣いている。

 「……ピィ!」

 「……ノエル?」

 ノエルは何かを決意したように鳴き、すっくと二本の足で立ち上がった。そして体勢を低くして泣き濡れたエリーシャの顔を見た。

 「ピィ!!」

 “乗るんだ!!”まるでそう言われているようだった。

 「……助けてくれるの……?」

 ここではないどこかへ連れて行ってくれると言うのだろうか。
 ノエルの瞳は真剣だ。

 「でも……どこに……?」

 これにはノエルは答えなかった。
 (……どこに行くつもりなのかしら……ううん、どこでもいい。あの二人の姿を見なくて済むのならそれだけでいいわ……!)
 エリーシャは意を決してノエルの背に乗った。

 「ありがとうノエル……私、生まれ変わったらノエルのような人と添い遂げたいわ。」

 「ピィィ!?」

 思いもかけないエリーシャの一言に、ノエルはもう既にこの世にはいない番に恋をしたあの日を思い出す。
 そしてその胸の高鳴りはノエルを大いに発奮させた。今回ばかりは許さんフィランと。
 そしてノエルはエリーシャを乗せて飛んだ。
 王国一難攻不落のある場所へと向かって。


 *


 「……ここは……王都の外れかしら……」

 ノエルの背から見えるのは灯りのまばらな郊外だった。

 「あら……?」

 ほどなくすると見えて来たのは広大な敷地に建つ大邸宅。エリーシャのいる王宮に負けないくらい大きなそこは、貴族でも相当の身分を持つ者の邸宅だろう。
 そしてノエルはその邸宅に向かって降下を始めた。

 「ノエル!?」

 しかしノエルは迷いなく向かって行く。
 エリーシャは降下の恐怖に目を瞑り必死でノエルに掴まった。
 やがて今度はふわりと浮く浮遊感。
 恐る恐る目を開けるとそこには…

 「……何でここに来ちゃったの……」

 目の前に突如現れたノエルとエリーシャに驚愕の表情を向ける騎士団長ラウルがいたのだった。



 
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