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外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編
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しおりを挟むエリーシャは三姉妹の末っ子だ。
一番上の姉は現在謹慎中のレオノール。そして今回会いたいと願い出たのは二番目の姉シャローナだった。
「久し振りねエリーシャ!」
「シャローナお姉様!」
両手を広げて勢いよくぱふっと抱きつくと、シャローナの身体からは柔らかな花の香りがする。
きつくなく上品なそれは、きっと今王都で流行っているものなのだろう。
シャローナは流行にとても敏感で、エリーシャが知る限りではこの国一番のお洒落さんだ。
「いきなり会いたいだなんてどうしたの?」
「迷惑だった?」
「そんな訳ないじゃない。でもエリーシャは今姉様より銀の竜騎士に夢中だもんね。」
そう言ってシャローナは茶目っ気のある笑顔を寄越す。
「もう……からかわないでお姉様。でもそうね。うん。今はフィラン様の事で頭がいっぱい……」
「どうしたのエリーシャ?何だか表情が暗いわ。」
さすが姉と言うべきか。
しかしシャローナが敏感なのは流行だけではない。彼女は昔から人の心の機微に敏感だった。
物言いははっきりしているがとても優しい人なのだ。
「ううん、何でもないの。それよりお姉様にお願いがあるの。」
「お願い?」
姉は少しびっくりしたような顔をした。そういえばシャローナお姉様にお願い事をするのは初めてだったかも知れない。
「うん。とびきり大人っぽくなれるドレスを貸して欲しいの。今夜はフィラン様の凱旋のお祝いみたいなものでしょう?だから少しでも綺麗な姿でお祝いしてあげたくて……駄目かしら?」
「まぁ妬けるわね!いいわ、すごいの貸してあげる!」
「す、すごいの?」
すごいのって何だろう?
確かに姉様は派手好きではあるけれど……。
しかし悩む間もなくエリーシャはシャローナに連れられて、部屋の奥にあるドレスルームへと向かったのだった。
**
宴の開始時間より早めに来たつもりだったが広間は既に騎士達で賑わっていた。
エリーシャはいつもと違う自分の装いに緊張していた。
シャローナはせっかくの宴席なのだからと赤や黄色のドレスを薦めてきたが、今日の主役はあくまで竜騎士団だ。そしてフィランの横に並ぶ事を考えると同じ青の系統が良いだろうと思い、数あるドレスの中から騎士服と同じ濃紺のドレスを選んだ。
だがやはり姉が“すごいの”と言うだけある。
前は鎖骨のラインに沿って上品なレースで覆われているのだが、背中は大胆に開いているマーメイドラインのドレスだ。
『これを着てフィラン様を焦らせてあげなさいな!』
焦るも何も、もうフィランの気持ちは自分から離れてしまっているのだ。
だからこそ今日は誰よりも美しくありたかった。そうでもして自分を奮い立たせないと彼の側にいられないような気がした。
(きっと彼は私になんて見向きもしないけど…)
そういえばこの濃紺……カサンドラ姫の纏う緋色の制服とは対照的だ。
そう思うと随分惨めな気持ちになる。
自分がまるで彼女の引き立て役のような気がして。
今日の宴は着座式で行われるようで、長いテーブルの上には所狭しと豪華な料理やカトラリーが並べられていた。
上座には王族用にテーブルが置かれており、侍女はそこにエリーシャを案内した。
しかし椅子は四つ。二つは父母である国王夫妻が既に着席していた。もう一つはエリーシャだろう。
シャローナも顔を出すと行っていた。だからこの四つの席は自分達家族の分だ。
(……でもフィーは……?)
てっきり隣に座るものだと思っていたエリーシャがキョロキョロと辺りを見回したその時だった。
「おお、主役の入場かな。」
父王の声が広間に響くと同時に皆の視線が一斉に扉の方へと向いた。そこから入場して来たのはカサンドラ姫と姫をエスコートするフィランだった。
二人は微笑み合い、談笑しながらこちらへと向かって来る。
エリーシャの胸はズキズキと音を立てて痛んだ。なぜフィランとカサンドラが並んで歩いて来るのか。いや、フィランは案内をしているだけなのだろう。いくらなんでも父母の前で堂々と浮気相手のエスコートなどする訳がない。これは彼の義務であり職務だ。けれど頭ではわかっていても心は理解出来なかった。
二人を直視するのが辛い。
それなのにどうしても目は仲睦まじい二人の姿を追ってしまう。
その時だった。
カサンドラ姫が私を見て笑ったのだ。
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