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外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編
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しおりを挟む「姫様!!」
よろよろと力の無い足取りで階段を上っていると、中間あたりで追いかけて来たニナと出会う。
「ニナ……」
「まぁ!お顔の色がとても悪いですよ!!」
ニナの表情からすると今の自分はおそらく死人さながらの顔をしているのだろう。けれどそれは走ったせいではない。さっき見た光景があまりにもショックだったから。
フィーが微笑むのは自分だけ。
いつからそんな驕った考えを抱くようになっていたのだろう。馬鹿だ。エリーシャの大馬鹿者。あんな素敵な人が自分だけで満足してくれるなんてそんな訳ない。たくさんの美女や才媛から言い寄られるあの人が自分だけのものだと信じて疑わなかったなんて……
「……私はなんて愚かなの……」
「姫様?」
「ううん……何でもないのニナ。心配させてごめんね……」
エリーシャは気を抜いたら溢れ出そうになる涙を堪えながらニナと共に階段を上った。
**
「今日はやはり宴会になるみたいで……フィラン様も来られないそうです。」
夕刻になってもフィランは顔を見せなかった。
(帰ったらいつもすぐ顔を見せてくれるのに……)
どんなに汚れていても必ずフィランはエリーシャの元へ来てくれた。
『こんなに汚れてるのにごめんリシャ……でもどうしても早く顔を見たくて……!』
そんな彼が愛おしくて愛おしくて汚れなんて構わずに抱き締めた。時にはそのまま愛し合った事も……。
けれど今日エリーシャの元に来たのはニナの兄ルカだった。
「兄さん、見慣れない騎士服の方達がいたけどあれは?」
「ああ、あれはベルーガの騎士団の方達だよ。」
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「うん。ちょっと色々あってね。」
そう言ってルカはニナに目配せをした。
そしてエリーシャはそれを見逃さなかった。
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「えっ!?」
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「あの……姫様どうしてそれを?」
ルカはおずおずと聞いてくるがエリーシャにはそれに答える事は出来なかった。
なぜなら誰かを介して得られる情報に振り回された経験があるからだ。
あれを再び繰り返してはならない。
そしてエリーシャは今夜直接フィランに会いに行く事を決めたのだった。
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