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外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編
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しおりを挟むそして思っていたよりもあっという間に二週間は過ぎ、フィラン達竜騎士団の帰還予定日がやって来た。
エリーシャは朝からソワソワしながら塔のバルコニーに出てはフィランが帰ってくるであろう方角を眺めていた。
日の光を浴びてキラキラと輝くノエルの銀の鱗は遠目からでもよくわかる。でも一番輝いているのはやはりエリーシャの愛するフィランだ。
二人が結ばれてからというものフィランは帰還した時は必ずこの塔を一周してから竜舎へと戻るようになった。
『私が戻った時にくれるリシャのあの笑顔は特別なんです。』
彼曰く私が嬉しくて嬉しくてたまらないといった表情をしているらしい。けれどそんな事当たり前だ。だって本当に嬉しいのだから。
しばらくそんな事を思い出していると、侍女のニナが椅子に座るエリーシャの横に、なにやら怪しい香りのする液体が入ったグラスをそっと置いた。
出てはいないが妙な靄が出て来そうな……そんな雰囲気の液体だ。
「……ニナ、これは何かしら?」
するとニナは得意満面で答える。
「二週間ぶりとなりますと、今夜は大変な騒ぎになるかと思います。ですから今日は滋養強壮の効果がある薬草をギュッと煮出した薬湯です!」
今回は特注品なんです!とガッツポーズをするニナ。一体こんな物どこに特注したのか教えて貰いたい。まさか王宮の薬師にだろうか。そうだったなら穴があったら入りたい。いや、掘ってでも入る所存だ。
「きっとそんな事にはならないから大丈夫よ。ラウル様も今夜は騎士団の屯所で宴会になるだろうからって言ってたじゃない。」
「いいえ!フィラン様の愛を舐めてはいけません!」
「別に舐めてはいないんだけど……」
彼のその……性欲の強さについては嫌じゃないけど嫌と言うほど知らされた。
時に度が過ぎて身体が悲鳴を上げる事もあるが、それもすべては自分を愛するが故。なぜならフィランは愛を言葉で伝えるよりも全身で伝える方が信頼に足る行動だと思っている。それが不器用な彼の一番の愛情表現なのだ。そしてフィランの竜のような愛の深さはそのままエリーシャの幸せの深さに繋がっている。
「だからちょっと激しくてもそれは私が受け止めてあげるべき事だわ。だから大丈夫よニナ。」
しかしニナの気持ちは有り難くいただかねばなるまい。エリーシャは覚悟を決めて謎の液体に口を付け、女は度胸とばかりに一気に飲み干したのだった。
「あ!姫様!」
飲み干せたのが奇跡だ。口の中がまるで苔の生えた沼のようだと思いながらエリーシャはニナの方を振り向く。すると太陽を背にするようにして輝く竜の一団が見える。
「ノエルだわ!」
エリーシャは喜びにバルコニーから身を乗り出す。しかし彼らが近づくにつれいつもと何かが違う事に気付く。
「……何だか多い……?」
確かに我が国の竜騎士団であるが、その中にちらほらと緋色の騎士服が混じっている。
(もしかしてあれはベルーガの……?あっ、フィーだわ!)
フィランの姿を見つけ大きく手を振るエリーシャだったが、彼はなぜかいつものように塔の周りを飛ぶ事なく竜舎へと戻って行ったのだった。
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