【本編完結】病弱な三の姫は高潔な竜騎士をヤリ捨てる

外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編

１

　これはヤリ捨て姫が高潔な竜騎士とめでたく結ばれた少し後のお話。




　「ピィ！！」

　「おぉ、おぉ、久しぶりだな！なんだ、少し大きくなったんじゃないか？」

　あの一件（＊フィランの大暴れ）以来すっかり意気投合した子竜と宰相。
　宰相は手が空くと散歩と称したびたび竜舎を訪れるようになった。

　「一人でミルクも飲めるようになったそうじゃないか。偉いな！」

　「ピィ……」

　しかし子竜は暗い表情で下を向く。
　別に好きで一人でミルクを飲んでる訳じゃない。出来る事なら大好きなエリーシャの側で飲みたいのだが、いかんせんすくすくとよく育ってしまったこの身体でエリーシャに甘える事をあの男はよしとしなかった。

　『いつまでも甘えるんじゃない。お前も男だろう。いい加減にしないと愛想を尽かされるぞ。』

　しかし子竜は知っていた。自分の目の前でそう言い放ったこの男こそが一番エリーシャに甘えている事を。


　城内で悪鬼羅刹の如く暴れたフィランがエリーシャを連れ去ったのは少し前の事。
　夜が明けても戻らぬ二人に捜索隊を出そうとした王であったが、宰相と騎士団員からの“触らぬ神に祟りなし”という必死の説得で諦めた。
　結局二人が戻って来たのは二度目の夜が明けた日の朝だった。
　やっと戻って来た娘に喜んだ両親は思わず駆け寄りエリーシャを抱き締めたのだが……修道服からちらりと覗く首筋や、華奢な手首にまで散らばる無数の花弁のような赤い痕を見て目を見開き押し黙ってしまった。
　エリーシャはそんな両親に向かって少し恥ずかしそうに笑いながら言ったのだ。

　『今回はヤリ捨てじゃなくて、たくさん愛し合ってきたの。お父様、お母様。私ね、フィラン様の番になるわ。』
　
　この上なく幸せそうな娘の笑顔に負けた両親は、エリーシャの身体の事も考えこのまま塔で暮らす事を二人に提案した。
　フィランはこの国で有数の家門である侯爵家の次男としてこの世に生を受けた。
　現侯爵邸は長男である兄が継ぐ予定であるため、フィランはエリーシャが降嫁してくれた後は新しく住まいを構える事を考えていた。なのでフィランは王と王妃からのその提案に少し悩んだが、自分は竜騎士団長として王宮に滞在する時間が長いし遠征も多い。エリーシャの安全面を考慮してもその方がいいだろうと言う結論に至り、特例として王宮内に住む事となったのだ。


　「でも良かったじゃないか。それでお前も姫様と離れずに済んだ。」

　「……ピィ。」

　しかし子竜はふくれっ面だ。
　
　「元気を出せ。それと……姫様には悪いがお前にはいい知らせだ。フィラン殿が遠征に行く。」

　「ピィ！？」