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 いくらなんでもこれは少しやり過ぎだ。
 団員達も宰相もそれはわかっていた。
 そもそも証拠品のシーツはエリーシャを修道院から出すための道具として使われるだけのはずだった。
 それなのにフィランときたら証拠品の提出の際他人がそのシーツに触れるのを異様なまでに嫌がり、見るのは構わないが触るのは許さないと額にまで入れてしまったのだ。
 エリーシャの人柄を改めて目にした今、これに関わったフィランを除く全員が後悔に襲われていた。

 すると突如皆の顔色が変わる。
 その視線の先にいたのはさっきとは打って変わって怒気を孕んだ目をしたフィラン。
 フィランはエリーシャに向かって一歩踏み出した。

 「……姫……あれは全部演技だったのですか?私以外でも……男なら誰でもよかったと?」

 「そんな……!!」

 エリーシャの心は握り潰されるように痛んだ。
 自分は彼の幸せの邪魔をしないようにと後ろ髪を引かれる思いを必死に断ち切って去ったのに。
 吹っ切れたようでいても本当は辛かった。辛くて辛くてたまらなかった。
 自分を罪人にしたいのならもうこれで終わりにしていいはずだ。だって自分はもう罪を認めたのだ。それなのになぜこれ以上傷付ける必要があるのか。 

 「騙されているとも知らずあなたに夢中になる私の姿はさぞかし滑稽だったでしょう。まったくいい趣味をお持ちですね。」

 フィランの美しい口元は見た事がないほど嫌らしく歪んでいた。
 そしてこの言葉でエリーシャの心はそれまで必死にせき止めていたものが抑えられず、ついに決壊してしまったのだ。

 「……どうしてなの……?」

 全員がハッと息を飲んだ。
 エリーシャの瞳から涙が流れ落ちていたから。

 「どうしてそんなひどい事が言えるの?私は……私はただあなたとの約束を守っただけなのに……」

 「約束?私とあなたが何の約束をしたと言うのです?」

 憶えてくれてもいないのか。
 ショックを受けつつもエリーシャは震える声でフィランの問いに答えた。

 「あの夜の事は決して他言しないと……あなたにはもう番う事を決めた人がいるからと……だから私は邪魔にならないように消えたのに……それなのに……!!」

 “ええっ!?”
 “なにそれ!?”
 “団長から聞いてた話と全然違うじゃないの!”
 後ろの団員達からざわめきが起こる。

 苦しそうに顔を歪め、泣きながら訴えるエリーシャにフィランは戸惑う。
 (何……何を……?私に番う事を決めた人がいる?……それは姫の事だ。だから一生番うつもりで一つになった。ちゃんと伝えたはずだ。それなのに姫は一体何を言っているんだ?)

 「そんなに私が憎いですか!?邪魔ですか!?それなら早く殺せばいいじゃない!!」

 「ちょ、ちょっと待って下さい姫!!」

 「放して!!触らないでよ!!そうよ!!あなたの言う通り私は男をヤリ捨てする最低な女よ!!」

 フィランは興奮するエリーシャを宥めようとするが、エリーシャはそれを許さない。
 すると事態を見守っていた団員から声が上がった。

 「待って下さい団長!!」

 「何だ!?今は黙ってろ!!」

 しかしその団員の顔は真剣だ。

 「黙ってる訳には行きません!今の姫様のお話を聞く限り、被害者は姫様の方ではありませんか!?」

 「は!?」

 「要約すると団長は姫様に“俺には他に女がいるけどそれでもいいなら関係を持ってやる。だが絶対に他言するなよ”って言ったって事ですよね!?」

 「はぁぁあ!?」

 「それなのに団長は姫を罪人に仕立て上げようと……何て卑怯な……!」

 “最っ低だ!”
 “男の風上にも置けねぇふてぇ奴だ!”
 “おい!どうする!?”

 ざわめきは大きな渦となり広間を包んだ。

 「ちょっと待て!落ち着けお前達!姫もです!!何か齟齬そごがある!!」

 「待ちません!お前ら!!姫をお守りするぞ!!」

 “おおーーーーっ!!!”という掛け声と共に団員達はエリーシャを取り囲むように前へ出た。

 「お前ら!!私の命令に逆らう気か!?」

 「団長!男には命を懸けて逆らわなければならない時があります!!それが今です!!」

 「何!?」

 そして団員達はエリーシャの盾となるよう壁を作る。

 「姫!!とりあえず我らの屯所へ参りましょう!!」

 そして後方の団員は泣きじゃくるエリーシャを抱えて走った。
 前列の団員の無事を願いながら………。








 
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