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しおりを挟むそして四人の団員は部屋の隅から何やら巨大な額のようなものを抱えて持って来た。
「お前などに見せるつもりはなかったが仕方ない。上げろ!」
そして団員達はフィランの掛け声と共に下に向けられていた額を立てた。
(……何これ……?)
エリーシャは首を傾げる。
それはやはり額であったが、中には真っ白な台紙が見えるだけで何も納められていない。
「おい!いい加減に足をどけろよ!!」
皆額にばかり気を取られ、イーサンがフィランの足に踏まれたままなのをすっかり忘れていた。
フィランは小さく舌打ちをした後、イーサンの頬をわざと擦るようにして足を離した。
そして突如額に向かって恍惚とした表情を浮かべ、話し出した。
「……何て可憐なんだ……お前にはわかるまい……この美しさが……」
その場にいた全員が……と言いたいところだが、訳がわからないという表情をしているのはエリーシャとレオノール、そしてイーサンの三人だけだ。
父王は泣き、宰相も団員も下を向き、額を抱える男達は目を瞑って何かに耐える修道士のよう。
「これが何だって言うんだ!?ただの白い紙じゃないか!馬鹿にしてるのかお前!?」
しかし喚くイーサンに目もくれず、フィランはうっとりと額の中の白い紙を眺め続けていた。
(……ん?何だろう……何だか一部分がよれてる……?)
エリーシャは眉間に皺を寄せ、目を細めてじっくりと額縁の中を見た。
すると紙だと思っていたそれは白い布のようだった。
「あの……フィラン様?これは何か説明してもらえるかしら。」
レオノールはフィランの側に立った。
するとフィランは優しく額の表面に手を伸ばす。
「……これは一度目……裸足で必死に私を探して走って来た姫の小さく美しい足を洗ってあげて……そのまま後ろに倒して一つになったからこんなところに付いてしまった……ふふ……」
最後の“ふふ”の部分に全員が総毛立つ。
何かはわからないが、この世にとてつもなくよろしくない物が誕生した。皆そんな予感がしていた。
「ここ?ここって……?」
そして更に近付いたレオノールの顔が引きつる。
(……何?何なの?)
気になったエリーシャもこっそりとフィランの背後から近寄った。
「……ヒィッ……!!」
しかしそこに見えたのは額ではなかった。
目の前には綺麗な弧を描く青い瞳。
気付かれないようにと近付いたエリーシャを急に振り返り、妖艶に微笑むフィラン。
「……ねえ姫……綺麗でしょう……?あなたの生涯で一度しか見れない破瓜の血と、私の愛が溶け合った跡です……」
“さぁ、見てご覧なさい”
そう言ってフィランが指差す先には薄桃色の大きなシミ。その微笑みは何だかとてもどす黒く、エリーシャはあまりの恐ろしさに凍り付いてしまったのだった。
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