47 / 121
47
しおりを挟む空気のまったく読めないイーサンは尚も続ける。
「それにしてもエリーシャ様は一国の王女でいらっしゃるのですよ?遊ぶにしたって他にいくらでもいたでしょうに。何でよりによってこんな奴と……」
イーサンの祖国エルニカにも竜は生息しており、もちろん竜騎士団も存在する。
だがその在り方はこの国とまったく違った。
竜は戦うための“モノ”であり、平素は野蛮な生き物と蔑まれているのだ。
まるで“どうだ?言ってやったぜ!!”と言わんばかりにふんぞり返るイーサンに、口を開いたのは誰もが予想もしなかった人物だった。
「……誰が野蛮ですって……?」
皆が耳を疑った。
この声は知っている。だがしかし自分達の知るそれとはまったく違う。聞いた事もないような低い声。
その声の持ち主であるエリーシャはゆっくりと立ち上がった。下からイーサンを睨め上げるようにして。
「エ、エリーシャ姫?一体どうされたのです?」
イーサンはエリーシャの形相にたじろいだ。
「もう一度仰ってもらえますか?誰がどう野蛮だというのです?」
エリーシャの目は恐ろしいほどに獰猛な光を宿し、決して逃すまいとイーサンを睨みつけている。
「あ、ああ。野蛮なのはですね……まあ本人達を目の前にして言うのも気が引けますが……この者達はあの汚らわしい生き物である竜を従わせるような奴らですよ?野蛮極まりないでしょう?」
パァァァァァン!!
その瞬間だった。
乾いた音が広間に響く。
あまりの事に国王は涙目で口を押さえた。
なぜならエリーシャがイーサンの横っ面を勢いよく引っ叩いたからだ。
「「「「!?」」」」
誰もが目を見開き驚愕した。
そして打たれたイーサンは頭の中が真っ白になり、しばらくその場に立ち尽くした。
「竜のどこが野蛮な生き物だと言うの!?私は今までの人生であんなにも美しく気高い生命を見た事がないわ!!」
呆然とするイーサンに構わずエリーシャは続けた。
「フィラン様達は好きで戦っている訳じゃない!!戦いだってやむを得ない事情がある時だけよ!!」
この国は争いを好まない。
フィラン達が出陣するのは話し合いで決着がつかない時。そして友好を一方的に破棄され相手側が侵攻してきた時などだ。
「フィラン様は……そしてここにいる皆さんは、その綺麗な手を私達を守るために汚して下さっているのよ!?それを何て言い草なの!?あなたそれでもエルニカの王子なの!?それが本当だと言うのならエルニカは大した国じゃないわね!」
エリーシャの言葉を後ろで聞いていた団員達は皆目に涙を浮かべていた。
姫様の事は実際にお会いするまでは噂でしか知らなかった。
病弱で、塔に住まう第三王女。王に溺愛されていて、外界とは一切関わらず暮らしていると。
まさに絵本の中のお姫様だ。きっと世間知らずの浮世離れした方だろうと皆が思っていた。
だがある日、そんな絵本のお姫様そのものの彼女が自分達の前に突然姿を現したのだ。
皆が諦めていたノエルの子を膝に乗せ、時には地べたに座って楽しそうに会話しながらミルクを飲ませていた。
何も聞かなくてもどんな方かは一目でわかる。だってあの子竜の顔を見てみろ……。
そしてそんな姫が今、侮辱された団員達を我が事のように捉え怒り、隣国の王子の頬を張ったのだ。
何よりも心を打たれたのは、エリーシャが自分達の役割を正しく理解してくれていた事だった。
好きで血を流している訳じゃない。
どうしようもない罪悪感に苛まれ眠れない日もある。だが愛する者を守るために……そのためだけにやってきた。
団員達はもはや団長の事など二の次だと悟った。ヤリ捨てが何だ。こんな方にヤリ捨てられたら童貞冥利に尽きるだろうがと。
「お前達……何があっても姫様を守るぞ……!例え相手が団長でもだ……!!」
団員達は同僚の言葉に真剣な顔で頷いた。
2
お気に入りに追加
2,228
あなたにおすすめの小説
竜人王の伴侶
朧霧
恋愛
竜の血を継ぐ国王の物語
国王アルフレッドが伴侶に出会い主人公男性目線で話が進みます
作者独自の世界観ですのでご都合主義です
過去に作成したものを誤字などをチェックして投稿いたしますので不定期更新となります(誤字、脱字はできるだけ注意いたしますがご容赦ください)
40話前後で完結予定です
拙い文章ですが、お好みでしたらよろしければご覧ください
4/4にて完結しました
ご覧いただきありがとうございました
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】
倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。
時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから!
再投稿です。ご迷惑おかけします。
この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。
溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
妖精隠し
棗
恋愛
誰からも愛される美しい姉のアリエッタと地味で両親からの関心がない妹のアーシェ。
4歳の頃から、屋敷の離れで忘れられた様に過ごすアーシェの側には人間離れした美しさを持つ男性フローが常にいる。
彼が何者で、何処から来ているのかアーシェは知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる