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 「フィラン殿、今回の経緯を詳しく説明してもらえますか?」

 宰相の言葉にフィランは口を開く。

 「はい。今回私フィラン・ルクレールは、そこにおられる第三王女エリーシャ様にヤリ捨てされた事に対し不服申立てをいたしました。」

 (……まさか本当だったとは……)
 何かの間違いだろうと思っていたが、フィラン様も周りの方々も真剣だ。

 「フィラン殿。その……姫が行った“ヤリ捨て”とは一体どのようなものだったのですか?」

 フィランは“では……”と一つ咳払いをしてから話し始めた。

 「……私は恐れ多くも王女であるエリーシャ姫に長年恋心を抱いておりました。」

 (……えっ……?)
 今フィラン様何て?
 恋心?浮気心じゃなくて?

 「ずっと胸に秘めておこうと……そう思っていたのに、思いがけず奇跡のような事が起きたのです。姫も私を想っていて下さったと……。天にも昇るような気持ちでした。」

 エリーシャはなぜフィランがこのような嘘をペラペラと喋るのかまったく理解出来なかった。
 恋人がいるから私とは一夜限りだと……合意の上での事だったはず。
 しかしその時エリーシャにある一つの考えが浮かんだ。
 (……まさか……恋人にバレたの……!?)
 そうか……だからこんな事を……。
 あの日待機してくれていた彼は騎士服だった。仕事終わりに家にも帰らず待っていてくれたのだろう。そして朝帰りまでさせてしまった。それでバレてしまったのだ。 
 きっと私との事を知った恋人に責められたのだろう。当たり前だ。私だってそうする。
 きっとフィラン様の恋人は泣いて喚いて彼に乱暴して……それは大変な騒ぎだっただろう。
 (……多分……それでも気持ちが収まらなかったのね……)
 おそらく彼の恋人は今回の事で私を彼に不貞行為を強要した罪に問い……死刑にしたいんだ。

 しかしエリーシャの思いをよそにフィランの独白は続く。

 「ですから私は姫にこの身を……人生のすべてを捧げる決意をした。幸せでした。今も思い出せば夢の中にいるようで……。それなのに姫は私をヤリ捨て修道院へと入られてしまったのです。」

 フィランの告白を聞いた宰相はエリーシャに問い掛ける。

 「なるほど……それは切ない想いをされましたなフィラン殿。エリーシャ姫、なぜこのような事をなさったのです?それ相応の理由があっての事でしょう?それをお話下さい。」

 宰相もフィランも団員達も、エリーシャから語られるであろう真実を固唾を呑んで見守った。

 “さあエリーシャ姫!真実を言うんだ!私にイーサン王子との結婚を強要されてすべてを諦めるようにして修道院へ行ったのだと!”
 “姫……私は信じてる。ヤリ捨てなんて誤解だと……私との愛は本物だと!”
 “姫様!お願いだから!嘘でもいいからヤリ捨てじゃないって言って!”

 一旦は怒りに燃えたフィラン達だったが、やはりエリーシャの人柄を思うとヤリ捨ては信じられなかった。
 フィランへの愛が真実であるのなら罰を受ける必要も修道院へ行く必要もない。
 あとは本当の事を告白してくれれば一件落着なのだ。

 「さあエリーシャ姫」

 エリーシャはゆっくりと顔を上げフィランを見た。
 青い瞳と目が合うがしかし、彼の視線は冷ややかだった。
 (……あなたも……あなたも私に死んでほしいのね……)
 穏やかな余生を送る事すら許されないのか。
 (人の人生を邪魔した報いがこれほど大きいなんて知らなかった……)
 けれど覚悟の上だ。
 “死んでもいい”
 あの時本当にそう思ったのだ。
 そして願いは叶えられた。
 (代償を払わなければ……)

 エリーシャは震える足で立ち上がり、前を向いた。

 「いえ……その通りでございます。私はこの高潔で純粋な竜騎士団長フィラン・ルクレール様を騙し、その身体を捧げるようそそのかしました。」


 「「「!?」」」




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