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しおりを挟む「着きました。」
御者の声に促され、エリーシャはゆっくりと馬車を降りた。
その両手は縄で縛られている。
(もう二度と戻る事はないと思っていたのに……)
長年暮らした王宮が、何だか違う建物のように見える。
「広間で皆様がお待ちです。」
迎えに来た従者が私の顔を二度見して下を向いた。
おそらく彼は聞いているのだろう。私にかけられた世にも不名誉な嫌疑を。
「わざわざお迎えありがとうございます。あの、皆様……とは?」
「両陛下並びに宰相閣下。そしてフィラン団長と竜騎士団の皆様です。」
「竜騎士団……裁判官ではなくて?」
エリーシャは疑問に思い聞き直した。
原告のフィランがいるのはわかるが何故騎士団員まで出席しているのだと。
「はい。詳しい事情はわかりませんがそのように伺っております。」
竜騎士団は総勢百名ほどいると聞く。
まさか百名の細マッチョ(竜騎士団は騎竜する関係もあり細マッチョ多し)が一斉に私を待ち受けているというのか。
エリーシャは自分でもよくわからない感情を抱えながら、重い足取りで広間へと向かったのだった。
*
「第三王女エリーシャ様をお連れしました!」
広間の扉が開けられる。
エリーシャの目の前に広がったのは赤い絨毯の両脇を埋め尽くす竜騎士団の制服。
その濃紺の海の先に見えたのは美しい銀色。
もう二度と逢えないと思っていた愛しい愛しいエリーシャの銀の竜。
(……フィラン様……)
その美しい姿に胸が締め付けられるように痛む。
けれどフィランは無表情でエリーシャを見つめている。
エリーシャは切なくなった。
縛られた腕が痛む。
何故彼は自分をこんな目に遭わせるのか。
約束は守ったのに。彼が何の憂いもなく愛する人と番う事が出来るよう黙って去ったのに。
「エリーシャ姫、前へ。」
私を追い出そうとした宰相が、玉座に座るお父様の横で私に前へ出るよう促した。
白と黒の質素な修道服に身を包み、両手を縛られたエリーシャが赤い絨毯を行く様を、騎士達は一言も発せず見守った。
(……皆さんさぞかし私を憎く思っていらっしゃる事だろう……)
あんなによくしてもらったのに、何も言わずに……しかも敬愛する団長を傷付けるような真似をしたと思っているはず。
玉座の前まで来てエリーシャは足を止め跪いた。視界の端にフィランの長い足が見える。
その目が今自分に向けられていると思うだけで身体が燃えるように熱くなる。
「久しぶりだなエリーシャ。息災であったか?」
父の声は少し震えていた。
十六年の間ずっと愛を注いでくれたのだ。娘が突然姿を消した事で、どれほど心配をかけただろう。
「……はい。この度の事……本当に申し訳ありません。ですが……!」「エリーシャ姫!」
顔を上げ、謝罪しようとしたエリーシャを宰相が止めた。
「発言はこちらが許可した時のみにしていただきたい。よろしいですね。」
宰相の口調はとても強い。
エリーシャは力なく
「はい……」
と言うのが精一杯だった。
「さて、姫はなぜご自分が呼ばれたかはもうおわかりですな?」
「……わかりません……」
「ほう……そうですか。では訴えを起こした本人にお聞きしてみましょう。フィラン殿?」
フィランが一歩前に出た。
しかしエリーシャはどうしてもフィランの顔を見る事が出来なかった。
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