【本編完結】病弱な三の姫は高潔な竜騎士をヤリ捨てる

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 動かなくなった玩具のように固まってしまったフィランを団員達はこれ幸いと回収にかかった。

 「レオノール様、今回の事は痛み分けといたしましょう。」

 前に出たのは長年フィランに仕えてきた青年だ。

 「痛み分け!?こんな目に遭わされて目を瞑れと言うの!?」

 「そうです。団長は本気です。ここで何とかしないと団長は今度こそ自分の命と引き換えにレオノール様をその手にかけるでしょう。」

 レオノールはさっきのフィランの形相を思い出しゾッとする。

 「……わかったわ。早く出て行って。」

 そして団員達はフィランを抱え、腰を抜かす侍女の隣を抜け出ていった。

 「ねえ……確かさっきの団員、エリーシャはオムニブス修道院にいるって言ったわよね?」

 レオノールは未だ腰を抜かし床に座り込んだままの若い侍女に問い掛ける。

 「は、はい!確かにそう言ってました!」

 「そう……そうね。まだ何とかなるわ……。」

 「は?」

 しかしレオノールはそれ以上口を開く事なく、しばらくの間一人何かを考え込んでいた。


 **


 フィランを無事回収する事に成功した団員達は、とりあえずフィランを静かな部屋の椅子に座らせ向かい合った。

 「団長……あの……酷な事かもしれませんが色々お聞きしても?」

 返事は無かったがフィランはコクンと小さく頷いた。

 「団長は姫様とその……一夜を共にされたと?」

 コクン

 「それは姫様の方から懇願して?」

 コクン

 「もちろん団長もすぐ食い付いた訳じゃありませんよね?なんて言ったって相手は姫様ですから……然るべき手順を踏んでからと……これは俺の勝手な予想ですが、団長ならそうするはずだと思うんです。」

 コクン

 「て言う事は、団長は躊躇したけど姫様に押されたって事ですよね?」

 コクン

 そこで団員達は皆顔を歪め、口に手をあて声にならない声を上げた。
 しかし質問は続く。

 「団長は姫様を一生離さないつもりでつがわれたんですよね?」

 ここでようやくフィランが口を開いた。

 「……私は生涯ただ一人としか番わない。それに私の愛は重い……それでも本当にいいのかと聞いたら……いいと。だから……だから私はそれを信じて……」

 団員達は悟った。
 間違いない。これはヤリ捨てだと。
 姫様は隣国へ嫁ぐのが嫌だった。
 けれどこのまま修道院に入るには未練があった。
 そこへ自分を想うフィランが現れた。
 修道院へ入る前の想い出作りの相手としてフィランは正に最適な人物だ。
 姫との未来を思って躊躇うフィランだが姫はもう修道院へ入る事を決めている。だから何が何でもその日フィランとヤッてしまいたかったに違いない。
 
 “姫様がフィラン様を口車に乗せてヤリ捨てしたんだ”

 「「「お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛」」」


 そして部屋中に気持ち悪い集団男泣きの声が響いたのだった……

 


 
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