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しおりを挟むようやく二人が寝台に横になる頃にはうっすらと空が白み始めていた。
フィランはエリーシャの頭の下に自身の腕を差し入れ、その華奢な身体を逞しい胸の中に大切にしまい込むように抱いた。
「……フィラン様は今日もお仕事だったのにごめんなさい……。」
こんな時間まで自分のわがままに付き合わせてしまった事をエリーシャは気にしていた。
騎士団の訓練は厳しい。それはいつも塔から見ていたからよくわかる。
(それなのに一睡もしないまま明け方まで……。)
いくらフィランといえど疲れただろう。
「……大丈夫です。」
そう言う彼の声はやはり少し眠そうだ。
「……では一つだけわがままを聞いて貰えますか?」
「わがまま?」
「……歌をうたって欲しいのです。」
「歌を?」
フィランを目を閉じて頷く。
歌とは……子竜に歌ってやったあの歌だろうか。
「……とても綺麗な声だった……だからもう一度聞きたいのです……」
こんなすごいわがままを聞いてもらった身だ。それくらいお安い御用だ。
エリーシャはフィランの腕から抜け出た。
「姫?」
驚いてフィランが目を開ける。
「……こうさせて下さい……。」
今度はエリーシャがフィランの頭を胸に包んだ。
柔らかな膨らみにフィランは幸せそうな顔で頬を擦り寄せる。
(フィラン様可愛い……)
その様子はまるであの子竜にそっくりだ。
銀の髪の私の愛しい竜。
(愛してる……ずっとあなただけを愛してるわフィラン様……)
そしてエリーシャはフィランのために歌った。
優しい優しい子守歌をフィランの寝息が聞こえるまでずっと……。
**
「ピ?」
「しぃーーーっ!おはよう、ノエル!」
家の側で休んでいたノエルは一人で出てきたエリーシャに不思議そうな顔を向けた。
「フィラン様は疲れて眠ってるの。だからノエル、少しお願いを聞いてくれるかしら?」
ノエルは首を傾げた。
お願いとは何だろう。
「連れて行って欲しい場所があるの。お願いノエル!」
エリーシャの顔は真剣だ。
ノエルはしばらく悩んでいたが、スッと身体を起こした。
「ありがとうノエル。大好きよ!」
そしてエリーシャはノエルの背に乗りある場所を告げた。
「ノエル、首都にある赤い屋根の塔はわかる?」
「ピィ。」
「わかるのね。そう、あなた達が帰る時目印にする塔は、私のいる塔ともう一つの赤い塔だものね。そこに連れて行って欲しいの。」
エリーシャはノエルの背を撫でる。
そしてノエルは翼を広げ飛び立った。
何も知らないフィランをそこに残して……
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