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しおりを挟むあれは竜騎士団長としての初陣だった。
ノエルと共に戦場を翔け、やっとの思いで勝利を収めて帰還した。
騎士達を讃える式典で、王の横に並ぶ小さな姫君がいた。
世にも珍しい薄くピンクがかった透けるような金色の髪。しかし姫君はそんな珍しい髪色すら霞んで見えるほどに整った美しい顔立ちをしていた。
姫君の名はエリーシャ。王の三番目の姫君だと言う。
そしてその日から私の頭の中にエリーシャ姫が住みついた。
それがどうしてなのかその時の私には理由がわからなかった。
勝って帰る度に姫は姿を現した。
けれど式典の場ではない。いつも目立たない場所からそっと覗くだけ。
身体が弱いと聞いていた。物陰から覗くその顔は青白く、私は彼女の身体がとても心配になった。
そしてある日姫が城で一番高い塔に住まいを移したと聞いた。
私はすぐにノエルの背に乗り飛んだ。姫のいるという塔を目指して。
けれどその日、姫の姿を見る事は出来なかった。
次の日も、その次の日もやはり同じ。
けれど三日目の朝だった。バルコニーに彼女はいた。美しい髪が太陽の光を受けて輝くその姿は神々しかった。
それから私は訓練と称しノエルの散歩と称し、何かにつけて塔の周りを飛んだ。
そして知ったのだ。昼は日差しが強いからバルコニーには出て来ない事。
夕焼けを見るのが好きで、沈むまでずっと眺めた後淋しそうに部屋に戻る事を。
そんなある日ノエルの様子がおかしい事に気付いた。
何をしていても無意識に目があるものを追っている。それが一頭の雌竜である事に気付いたのはしばらくしてからだった。
ノエルはいつもその雌竜の目に留まろうと飛んでいるように見えた。
疎い私でもわかった。ノエルは恋をしたのだ。彼女は細身で小柄な竜だったが…とても芯の強い子だった。
そんなノエルの姿を見ていてようやく自分の気持ちを理解したのだ。
私はエリーシャ姫に恋をしているんだと。
そしてそれから数年してノエルの妻となった雌竜は腹に子を宿した。
寄り添う二人は幸せの絶頂に見えた。
私も二人のようになれたらと。
それなのに彼女は子を産み落とした瞬間逝ってしまった。
ノエルは喉から絞り出すようにして悲痛な鳴き声を上げ、飛ぶ事も拒否し妻の亡骸から離れなかった。
こんなに苦しむのなら想うだけでいい。
私はノエルに寄り添いながら自分の気持ちに蓋をしようと決めた。
それなのにあの日……ノエルの子を見に立ち寄った竜舎で奇跡が起きてしまった。
最初は信じられなかった。地べたに座り子竜に向かって楽しそうに話し掛けている女性。その髪の色は自分が毎朝毎夕恋焦がれて見に行っていたエリーシャ姫しか持たない色。
会ってしまった。その瞳に自分が映っているのを見てしまった。
もう戻れない。そう思った。
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