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しおりを挟むエリーシャの気持ちを無視したまま宴は続く。
こんなところにいたくない。
エリーシャは何とか抜け出す方法を考えた。
「すみません少し気分が……外の空気を吸って参ります。」
そう行って席を立つと
「私がお連れしましょう」
とイーサンも立とうとする。
それをエリーシャは失礼だとは思ったが手で制し、すぐ戻るとだけ伝え広間の外へと出た。
このまま自室に戻れば連れ戻されるかも知れない。迷惑をかけたくなかったが、フィランが控えている場所へ行くしかない。
エリーシャが足を踏み出したその時だった。
「どちらに行かれます?」
後ろから声がして振り向くとそこにはエリーシャを睨むようにして宰相が立っていた。
「どちらにって……気分が優れないので外の空気を吸いに……」
「それでしたらバルコニーでもよろしいでしょう。さあ、戻られませ。」
宰相はエリーシャの行く手を阻むようにして立った。
「……どうして騙すような事をするのです。私は結婚など望んでいません。」
エリーシャが反論するのを初めて聞いた宰相は“おや”と眉を上げた。
「結婚を望まないと仰るのですか。ではあなたはこの先どうなさるおつもりです?一生何の役にも立たず塔に籠もって贅沢な暮らしを貪って生きて行くとでも?」
「そんな……!」
「あなたは王族だ。そのドレスも宝石も、食べる物さえも国民の血税で得た一流品。なのに王族としての義務も果たさずに、どの面下げて物を言っているのか…恥を知って貰いたいですな。」
エリーシャはあまりの悔しさに唇を噛んだ。
何か言い返してやりたかったが出来なかった。だってすべて宰相の言う通りだ。
自分は王族としての責務を何一つとして果たしていない。それなのに呑気に歌って散歩して、あまつさえ好きな男に抱かれたいなどと夢ばかり見て生きている。
「わかっています。私が何の役にも立っていないって。」
でもだからってあなたの思う通りにはならない。王族として役に立たないのなら、王族を降りる道だってあるのだ。
「さあ!戻りますよ!」
宰相は無理矢理エリーシャの手を掴もうとした。その時だ。
「キャーーーーーーーッ!!」
エリーシャは歌で鍛えた声で限界まで叫んだ。
「な、何を……!!」
宰相は慌てて辺りを見回す。
その一瞬の隙をエリーシャは見逃さなかった。
「ま!待ちなさい!!エリーシャ姫!!」
エリーシャはその日、生まれて初めて自分の足で走った。
お願いだから動け。動いて私の足。
もう一生走れなくなってもいい。
どうかあの人の所まで私を連れて行って。
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