上 下
18 / 121

18

しおりを挟む





 エリーシャの部屋からの帰り道、レオノールは意外な人物に出食わし驚いた。

 「あら、宰相様自ら何のご用?」

 “宰相様”と呼ばれた年配の男性はこんなところでレオノールに会うなどとは思ってもいなかったのだろう。
 こちらも驚いた顔で聞いてきた。

 「これはこれはレオノール様!今日はエリーシャ姫のお見舞いですかな?」

 「ええ、ちょっとね。あなたこそ一体どうしたの?」

 「いえいえ……少しばかり爺のお節介をと……」

 「お節介?」

 「……実はまだ陛下からはいいお返事を貰えていないのですが、エリーシャ姫に縁談をと思いまして。」

 「まあ!」

 宰相は内心“しまった”と思った。
 この家族はとにかく末の姫を可愛がっている。
 自分の一存でこんな話を進めていると知れたら必ず邪魔されるに決まっている。
 しかし宰相の読みは外れた。
 すぐさま止めるよう言われるかと思ったが、レオノールの口から出たのは思いもよらない言葉だったのだ。

 「ねえ……その話、詳しく聞かせてくれるかしら?」


 ***


 ここのところ晴天が続いていたのに今日は朝から土砂降りの雨だ。

 「姫様、フィラン様には使いを出しましたから安心してお休みになって下さいね。」

 「……ありがとう、ニナ……。」

 久し振りの高熱だ。しばらくは竜舎にも行けないだろう。
 (……あの子はちゃんとミルクを飲んでくれるかしら……)
 しかしエリーシャの心配は思わぬ形となって返って来る。

 それは翌日の夕方の事だった。
 未だ高熱の続くエリーシャに一通の手紙が届いたのだ。
 流麗な文字で書かれたそれにはこう記されてあった。

 エリーシャ姫
 お身体の具合はいかがですか?
 姫がいないとやはりあれは食事をしません。
 ご迷惑を承知で今夜お伺いいたします。
            フィラン

 「……今夜?……お邪魔する?どういう事かしらニナ……?」

 ニナは眉間に皺を寄せて首を傾げている。

 「言葉の通りでしたら……いらっしゃるおつもりですよね……。」

 「でも私こんなよ?本気かしら。」

 しかしフィランが本気だった事をエリーシャはこの数時間後に知る事となる。




 
 
しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】

倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。  時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから! 再投稿です。ご迷惑おかけします。 この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

妖精隠し

恋愛
誰からも愛される美しい姉のアリエッタと地味で両親からの関心がない妹のアーシェ。 4歳の頃から、屋敷の離れで忘れられた様に過ごすアーシェの側には人間離れした美しさを持つ男性フローが常にいる。 彼が何者で、何処から来ているのかアーシェは知らない。

処理中です...