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しおりを挟むエリーシャには二人の姉がいた。
幸いと言うべきか身体が弱いのはエリーシャだけで、二人とも広い王宮の中の庭園の付いた宮で健やかに成長していた。
では何故エリーシャだけが塔の上に住んでいるのか。それは外へ出る事のままならない身体であるエリーシャに、たくさんの景色を見せてやりたいと言う両親の想いがあったからだ。
政略結婚だった王と王妃だったが、二人は夫婦として結ばれてから恋愛をするという奇跡に見舞われた。そのせいもあり王家は家族仲、姉妹仲がとても良く、身体の弱い末っ子のエリーシャをとても可愛がっていた。
しかしそんな平和な日々を過ごす中、エリーシャの一番上の姉レオノールの耳にある噂が入る。
「フィラン様がエリーシャの塔に……?」
噂を運んで来たのはレオノールに仕えてまだ短い噂好きな若い侍女。
その後ろでは長年この宮に勤める年嵩の侍女が“やれやれもう”と言った表情で呆れている。
レオノールはフィランが騎士団に入団した頃から知っていた。
群を抜く騎竜術。剣を持たせても彼は一流だ。そして何より特筆すべきはあの美しさ……。
レオノールはすぐに侍女に命じてフィランの素性を調べ上げた。
何のために?
それはあの美しい男が自分の未来の夫になる資格を…この国の王になる資格を有しているのかどうかを知るために。
そして神は自分を裏切らなかった。
フィランの身分は申し分のないものだった。
それからレオノールは事あるごとにフィランに近付いた。
性格もいい。騎士団の指揮を取る時は激しい部分も出るらしいが、自分といる時はいつもとても穏やかだ。
(その理由は…多分私といるから…)
レオノールは絶世の美女という訳ではなかったが健康的な肉体の持ち主だった。
フィランほどの男なら貧相で化粧臭い作り物の美人よりも、若くハリがあり、そして何より身分も才覚もある自分を選ぶに違いない。
そしてこれまた何の奇跡か今の社交界には美女と呼ばれるほどの美しい女も、才媛と呼ばれるような賢い女も存在しなかった。
両親も自分の気持ちは知っている。だからレオノールはフィランから付かず離れず、自信に満ち溢れた日々を送りながら待っていたのだ。
あとはフィランが動くだけなのだと。
「エリーシャに会いに行くわ。」
レオノールは真相を確かめずにはいられなかった。
普段の彼女であればこんな愚かな事は決してしなかっただろう。
しかしどうしても自分を止める事が出来なかったのだ。
それはフィランの噂の相手であるエリーシャが、絶世の美女などという言葉では表現しきれないほどに美しい娘だったから。
(……あの子は塔の中にいるから関係ないと思っていたのに……)
レオノールの顔は酷く醜く歪んでいた。
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