【本編完結】病弱な三の姫は高潔な竜騎士をヤリ捨てる

クマ三郎@書籍発売中

文字の大きさ
上 下
15 / 121

15

しおりを挟む






 エリーシャには二人の姉がいた。
 幸いと言うべきか身体が弱いのはエリーシャだけで、二人とも広い王宮の中の庭園の付いた宮で健やかに成長していた。
 では何故エリーシャだけが塔の上に住んでいるのか。それは外へ出る事のままならない身体であるエリーシャに、たくさんの景色を見せてやりたいと言う両親の想いがあったからだ。
 政略結婚だった王と王妃だったが、二人は夫婦として結ばれてから恋愛をするという奇跡に見舞われた。そのせいもあり王家は家族仲、姉妹仲がとても良く、身体の弱い末っ子のエリーシャをとても可愛がっていた。

 しかしそんな平和な日々を過ごす中、エリーシャの一番上の姉レオノールの耳にある噂が入る。

 「フィラン様がエリーシャの塔に……?」

 噂を運んで来たのはレオノールに仕えてまだ短い噂好きな若い侍女。
 その後ろでは長年この宮に勤める年嵩としかさの侍女が“やれやれもう”と言った表情で呆れている。
 レオノールはフィランが騎士団に入団した頃から知っていた。
 群を抜く騎竜術。剣を持たせても彼は一流だ。そして何より特筆すべきはあの美しさ……。
 レオノールはすぐに侍女に命じてフィランの素性を調べ上げた。
 何のために?
 それはあの美しい男が自分の未来の夫になる資格を…この国の王になる資格を有しているのかどうかを知るために。
 そして神は自分を裏切らなかった。
 フィランの身分は申し分のないものだった。
 それからレオノールは事あるごとにフィランに近付いた。
 性格もいい。騎士団の指揮を取る時は激しい部分も出るらしいが、自分といる時はいつもとても穏やかだ。
 (その理由は…多分私といるから…)
 レオノールは絶世の美女という訳ではなかったが健康的な肉体の持ち主だった。
 フィランほどの男なら貧相で化粧臭い作り物の美人よりも、若くハリがあり、そして何より身分も才覚もある自分を選ぶに違いない。
 そしてこれまた何の奇跡か今の社交界には美女と呼ばれるほどの美しい女も、才媛と呼ばれるような賢い女も存在しなかった。
 両親も自分の気持ちは知っている。だからレオノールはフィランから付かず離れず、自信に満ち溢れた日々を送りながら待っていたのだ。
 あとはフィランが動くだけなのだと。

 「エリーシャに会いに行くわ。」

 レオノールは真相を確かめずにはいられなかった。
 普段の彼女であればこんな愚かな事は決してしなかっただろう。
 しかしどうしても自分を止める事が出来なかったのだ。
 それはフィランの噂の相手であるエリーシャが、などという言葉では表現しきれないほどに美しい娘だったから。

 (……あの子は塔の中にいるから関係ないと思っていたのに……)

 レオノールの顔は酷く醜く歪んでいた。



しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

褒美だって下賜先は選びたい

宇和マチカ
恋愛
お読み頂き有り難う御座います。 ご褒美で下賜される立場のお姫様が騎士の申し出をお断りする話です。 時代背景と設定をしっかり考えてませんので、部屋を明るくして心を広くお読みくださいませ。 小説家になろうさんでも投稿しております。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

処理中です...