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しおりを挟む奇跡というのは続くものだ。
何はなくとも熱は出るというとんでもなく身体の弱い私が、昨夜あれだけ動き回ったのに熱が出なかったのだ。
朝から特製の薬湯を作って私の目覚めを待っていたニナもこれにはびっくりしていた。
「やっぱり恋の力はすごいですね!それにしても姫様、どうして昨夜フィラン様にお願いしなかったんです?絶好のチャンスだったのに!」
「無理よ!!だって昨夜初めてお話したのよ!?それなのにいきなり“一度で構いませんから抱いて貰えませんか”なんて言えないわよ!」
「でも……」
ニナは何か言いたげに口ごもる。
だいたいこういう時は私をがっかりさせる情報がある時だ。今の話の流れで行くと、フィラン様に関する事なのだろう。
「何?何かあるのニナ?」
「あの……騎士団の兄の友人達が話しているのを聞いた事があるんですけど……」
出た。これは信憑性五割のネタね。
「やっぱり戦いの後なんかは興奮が冷めないみたいでその……そういう気分になっちゃうそうですわ。」
「そういう気分って……そういう事がしたくなっちゃうって事?」
「ええまぁ……ですからその……」
「だから大きな戦いの後ならフィラン様も快諾してくれるかもしれないって事ね?」
「はい!」
「それが本当だとしても、あのフィラン様が手当り次第にそういう事をするタイプだとは思えないんだけど……。」
フィラン様は何だかちょっと潔癖そうな雰囲気というか……そう、“高潔”って言葉がぴったりだわ。
気高くて心が美しい……そんな雰囲気。
「だからどっちかって言うと、“私病弱で……明日をもしれぬ命なので一度だけお情けを……!!”くらいに切羽詰まったお願いの方が聞いてくれそうな気がするんだけど……」
するとニナは顎に手をあててふんふんと納得している。
「でも姫様?状況に応じて何パターンかあった方が対応の幅も広がるってもんですから、来たるべき日に備えて色々対策を練っておきましょう!」
「来たるべき日か……そんな日本当に来るのかなぁ……」
でも本当は知ってる。私なんかにそんな日は永遠にやって来なくて、夢だけ見て幸せに浸ってる間にフィラン様は愛する人を見つけて幸せになるのだ。
「本当はノエルの背に乗せて貰っただけで満足しないといけないわよね。」
「姫様……」
その時だった。いきなり太陽が姿を隠してしまったのかと思ったらそれは大きな影だった。
ゆっくりと降りてくるのは光を受けてキラキラと輝く銀色の鱗。
「ノエル!!」
夢じゃない。しかも今は昼間だ。
月の光の下で輝く鱗も綺麗だったが、朝の光を受けて輝くノエルは神々しいほど美しかった。
「ピィ!!」
そしてノエルの背から降りて来たのはノエルに負けじと神々しいフィラン様。赤ちゃん竜をしっかり小脇に抱えている。
「おはようございます。」
「お、おはようございますフィラン様。」
昨日は暗がりの中だから大丈夫だったけど、明るいところでお会いすると何だかとっても恥ずかしいわ。
「……昨夜はよく眠れましたか?」
(心配してくれてる!?嬉しい……!)
「はい。今朝は熱も出なかったんです。こんな事初めてで……きっとノエルと赤ちゃんのおかげです。」
「そうですか。それは良かった。」
“早速なのですが……”そう言ってフィラン様は私に赤ちゃん竜を預けると、ノエルの背から何やら持ってきた。
やたらと大きい麻袋である。しかも二つ。
「やはりあなたがいないと飲まないのです。なので朝の分も持ってきました。」
そしてエリーシャの目の前に巨大な哺乳瓶が二個並んで置かれたのだった。
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