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しおりを挟む「この子の面倒を……私が……?」
「ええ。」
ゴキュゴキュとミルクを飲む子竜の側でエリーシャの頭は最高に混乱した。
え?私がこの赤ちゃん竜のお世話?
あれ?フィラン様もしかして私が誰かわかっていないのかな?
“病弱な三の姫”の私の話、聞いたことないのかな?
おそらく今夜の階段の上り下りで明日には熱が出るだろう。そんな私に一体何を言っているのか。
「……いえ、ちゃんと存じ上げております。エリーシャ姫。」
(知ってるんだ!嬉しい!)
違う。喜んでる場合じゃない。
「あの……知ってるのならなぜ……?」
まさか誰かに頼まれて私の息の根を止めようとでもしているのかしら。
大好きだと公言する竜のお世話で死んだなら変な噂も立たないだろう。
……いやまさか。そんな事ある訳ない。自分で言ってて切なくなるけれど、私なんて殺すほどの価値もないわ。ではなぜ?
「どうやらこの子はあなたの側でなら食欲が湧くようなので。」
何だ……餌やり要員か。いや、食欲増強要員とでも言うべきか。要は子守りよね。
「それは構いませんし私もこの子のお世話が出来るのは嬉しいのですが……その、とても身体が弱くて……だから毎日ここに通う事が難しいかもしれません。いえ、無理だと思います……。」
悲しいかなどんなにやる気があっても身体がついてきてくれないのだ。
今までもずっとそうだった。だから全部諦めた。…自分の未来さえも。
しかしフィラン様はそんな私の思いを軽々と乗り越えてきた。
「それならば姫の具合の悪い日は、お部屋までこの子に哺乳瓶を持たせて連れて行きます。」
「は!?」
「お身体の調子のいい日はこちらまで来ていただけますか?」
「は!?」
あまりの驚きに馬鹿みたいに“は!?”しか言えない私に尚もフィラン様は続けた。
「ここへ毎日通えば姫の身体も健康になると思いますよ。王には私の方から話をしておきますので。」
そしてポカンと口を開ける私に、フィラン様はこの日始めて笑顔を見せてくれたのだった。
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