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しおりを挟むこの子……何だか私みたい……。
安全なところに閉じ籠もって必死に自分を守ろうとして……。
でもこのままでは外の世界が怖くて怖くて檻から出られなくなってしまう。
だからといって何をしたらいいのかもわからず、私は赤ちゃん竜にひたすら話し掛けていた。
「あなたのお父様ってとってもすごいのよ!空を翔ける姿がどの子よりも美しいの!」
空を翔ける竜の美しさを語らせたら私の右に出る人はそういないだろう。
幼い頃から毎日、何千回と見てきたのだ。
「あなたの銀の鱗もとっても綺麗。大きくなったらきっとこの国一番の竜になるわ。間違いない。」
でもきっとその姿を私が見る事は出来ないだろう。
この子がいつかその背に主人となる者を乗せ空を翔ける時、私はここから厄介払いをされてどこかの国に一人いるはず。
「あなたが飛ぶところを見てみたいわ……それまでここにいられればいいのに……って、あれ……?」
夢中で話していたらいつの間にか赤ちゃん竜が側に来ている。
「まあ……もしかしてお友達になってくれるの……?」
《……ピィ……》
赤ちゃん竜は小さな声を聞かせてくれた。
「お喋りもできるの?凄いわ……とっても賢いのね。」
檻の間からそっと手を差し入れてみる。
「姫様!危ないです!」
「大丈夫よルカ。この子……とってもいい子だわ。」
伸ばした手を避けられるかと思ったが、赤ちゃん竜は指先の匂いをくんくんと嗅いだあと、ペロっと舐めてくれた。
「うふふ、くすぐったい。……鱗にも触っていい?」
ずっと憧れていた銀色の鱗。
まさかそれに触れられるかもしれない日が来るなんて。
《ピィ?》
キョトンとした顔がとっても可愛い。
私は怖がらせないように下からゆっくりと撫でるようにして鱗に触れた。
「わぁ……!」
まだ赤ちゃんだからなのか、硬いと思っていた肌は柔らかく温かい。鱗も滑らかでキラキラとしている。
「可愛い……本当に可愛いわ……。抱っこしてあげられたらいいのに……さすがに駄目よねルカ?……ルカ?」
返事がないのは何故だろうと後ろを振り返るとそこには青褪めるルカとニナ。
「二人とも…どうしたの……?」
ルカが目だけで合図した先にいたのは竜……ではなかった。
(嘘……!!)
そこに立っていたのは美しくも雄々しい竜と見紛うほどに輝く銀の髪の男性。
(フィラン様……!!)
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