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しおりを挟む「また竜騎士の皆様をご覧になっているのですか?」
なぜエリーシャが外ばかり見るのかその訳を知っている侍女のニナはニヤニヤと聞く。
これもいつもの事だ。
「もうニナったら!からかわないで。」
真っ白な頬を薔薇色に染めて恥ずかしがる主はとても可愛らしい。
ニナがこの“病弱な三の姫”ことエリーシャ付きの侍女になったのはもうずいぶん前の話。
主はどんなに具合の悪い日でも大きな窓を開け、空を翔ける竜を見る。
それが何故なのか最初はわからなかった。しかし主が見ているのは竜ではなく、空を翔ける竜の背にいる方を見ているのだと気付いたのはしばらくしてからだった。
「……竜だって好きよ?特にあの子……フィラン様の竜は彼とお揃いの銀の鱗がとっても綺麗。一度撫でてみたいわ。」
か弱い姫様の発言にはいつも驚かされる。
竜は気性の荒い生き物だ。
むやみに触れようものなら蹴られて死んでしまう。
その身に触れられるのは信頼する主人のみ。
「……とってもいい子達よね。己の信じる人に操を立てているのね。」
姫様はその身体のせいであまり部屋からお出にならない。本当は出たいのだろうが、出れば皆に迷惑をかけることになると遠慮しているのだろう。
「今度兄にお願いしてみますから、竜を見に行ってみませんか?」
ニナの兄は竜騎士団に所属している。
さすがにエリーシャの想い人であるフィランを呼び出すのは無理だが竜の見学くらいはなんとかなるだろう。
ニナはこの健気な主のために何かしてあげたくて仕方なかった。
「先日久しぶりに竜の赤ちゃんも産まれたそうです。行ってみましょう?ね?」
「竜の赤ちゃんが!?それはとても可愛いでしょうね。見てみたいわ……でもきっと私が行けば皆様に気を遣わせてしまう……それはちょっと……」
ニナの提案にエリーシャは顔を綻ばせたが、すぐに諦めたような淋しげな顔をした。
「でしたら夜に少しだけ。内緒で見れるようにしてもらいます!それならいいでしょう姫様?」
最初は渋っていたエリーシャだったがニナの押しに負けたのか、最後には首を縦に振ったのだった。
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