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8章
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しおりを挟む「我らの敵はガーランドではない!!打つべき敵はラシード!!そしてその赤髪の男だ!!」
その場にいた者達の視線は一斉にジョエルへと向いた。
しかしダレンシアに生まれた者であればジョエルの出自を知っている者は多い。王族に名を連ねたジョセリン王女の息子とあれば簡単には手を出せない。
しかしレオナルドは兵士達に語りかける。
「これは全て私の弱さが起こした事。だが今は過ちを振り返っている暇はない!我が子らよカイデンに続け!我が意志を正しくその身に受け継いでいるのはカイデンだ!!」
「陛下……!!」
共に歩いた時間の始まりは本当に下らない理由からだった。
男に生まれたら必ず一度は憧れる。【英雄】という言葉と存在。 憧れのようになりたいとその一心だった。
けれど共に過ごせば過ごすほど真実は見えてくる。この国の英雄は決して格好いい英雄ではなかった。泥と血にまみれ、時には調子に乗って攻めすぎて逃げ帰る事だってあった。だが何があっても仲間を、そして民を見捨てなかった。
何より兵士達を【我が子】と呼び、いつも気にかけた。
“カイデン!よくやったぞ!!”
子供だから…父の一言が何よりの褒美だった。
『お前はもう領地へ下がれ!!これよりはラシードがこの私を支える!!』
邪魔そうに…心底鬱陶しそうにそう言われても引き下がる事など出来なかった。
いつか時は来る。私達の父を必ずや取り戻してみせる。信じてひたすら待った。
「お前達!!ユリシス殿下はこの国を救うと約束して下さった!!レオナルド陛下とユリシス殿下を身命を賭してお守りしろ!!」
カイデンの叫びにそれでも戸惑う者達がいる。無理もない。選択を間違えれば反逆罪だ。
「くそっ…まだ動かないか…!」
早く城を制圧しなければ援軍が来てしまう。その前に全員が一枚岩となる必要がある。アランはレオナルドにもう一声かけて貰おうと促すが
「陛下!!レオナルド陛下!!」
レオナルドを支えていた兵士が叫ぶ。
「もう限界か…!レオナルド陛下!お気を確かに!!」
アランの叫びも届いているのかいないのか。レオナルドの身体からは徐々に力が抜けて行く。
(これまでか…!!)
ユリシスがそう思ったその時だった。
「それでもダレンシアの…ダレンシア国王レオナルドの子ですか!?」
耳をつんざくような叫びが城内に響き渡った。
戦場と化したこの場に似つかわしくないドレス姿で息を切らし乗り込んで来たのはリンシア王女だった。
「なっ……!!嘘でしょ!?何してるの!?何でまだ逃げてないんだよ!!」
クリストフはまさかの事態に目を見開く。
「ユリシス殿下をダレンシアへお連れしたのは私です!!」
リンシア王女の言葉に収まったはずのざわめきは再び大きくなる。しかし…
「少しお黙りなさい!!」
リンシア王女は女々しくざわめく兵士達を一喝した。
「父が操られ囚われていたのは事実です!!そしてユリシス殿下は…殿下は何の得にもならないのに…それなのに沈み行くこの国を…私達でさえも諦めていた未来を支えると言って下さった!!父上とカイデン将軍の命令が反逆罪に問われる!?それなら私はユリシス殿下を匿った罪で死罪だわ!!」
「…リンシア……」
レオナルドにはもう顔を上げる力も無かったが、耳に響くその声を確かに聞いていた。愛しい愛しいその声を。
「私はこの命を懸けてここに誓う!!討つべき敵はラシード将軍とジョエル・マーヴェル!!レオナルドの子らよ!頼みます!今こそ力を貸して!!」
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