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8章
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しおりを挟む「すまぬ…手を貸してくれ…。」
アランが手を差し出そうとしたその瞬間、後ろで成り行きを見守っていたカイデンの兵士達がレオナルドへ向かって押し寄せた。
誰もが目元を赤く染め、歯を食い縛るようにしてレオナルドを支えた。
「…こんなに慕ってくれる子供達がいるんだ。まだまだ引退する訳にはいきませんね。」
アランの言葉にレオナルドは僅かに微笑む。
その瞳には確かな光が宿っていた。
***********
王宮の方から聞こえていた喧騒がいつの間にか止んでいる事に気づく。
(どうしたアラン?そろそろラシードの援軍が到着する頃だ。急いでくれ!!)
いくらカイデン将軍の精鋭と言えど兵の数が違い過ぎる。倒しても倒しても現れる敵兵。味方の兵士達に疲弊の色が見え出した。
(ここで援軍がくればまずいな……。)
「よそ見してる暇なんてあるのか!?」
怒りに我を忘れたジョエルはユリシスの首を己の手で落とそうとなりふり構わずに向かってくる。手を出すなと言われたクリストフは向かってくる敵兵を二人に近付けないよう奮闘していた。
「俺が負けだと?これっぽっちの兵で何が出来ると言うんだ。負けはお前だ!」
多勢に無勢を地で行くユリシス達に向かって勝ち誇ったようにジョエルは嗤う。しかしそんなジョエルの態度もユリシスはまるで意に介さない。
(何なんだ…得体の知れないこの男の態度は…)
「弱い犬ほどよく吠えると言うが、まさにお前の事だなジョエル。」
「何だと!?」
ユリシスは再びクリストフの心臓に悪い悪人顔でジョエルに嗤い返す。
「そんなに私が羨ましいか?」
ジョエルの表情が僅かに硬くなる。
「一国の王になれば…私と同じ地位に立てばマリーの心が完全に自分の物になるとでも思ったのか?本当に…何から何まで浅はかな男だ。こんな男に出会ったばかりにマリーは……」
ユリシスの悪魔のような笑顔は一瞬だけ悲しそうに揺れた。
その時だった。
敵兵の動きが止まり、ざわめきが起こり始めた。
(何だ!?)
クリストフは兵士達の目線を追う。
「やっと来たか…遅いぞアラン。」
クリストフより先にユリシスは見付けた。あの日己の命を預けた男の姿を。
「我が子らよ!戦いをやめるのだ!!」
「陛下!!!」
敬愛する主の懐かしい声に感極まったカイデンが叫ぶ。レオナルドは強い眼差しでカイデンを見た。
ざわめきは止んだが兵士達は驚愕していた。
聞こえてきた声は確かにレオナルドのものだった。だがギヨームとラシードはレオナルドを王宮の奥深くに閉じ込めた後、ろくに世話もしなかったのだろう。その姿はあの雄々しく逞しかった王とはまるで別人のように醜く老いている。
「あれが王……?」
「本当にレオナルド陛下なのか?」
再びざわめきは大きくなっていく。
しかしそれをレオナルドは一喝した。
「囚われて醜い姿になろうとこの心は死んではおらぬ!!お前達は主君の顔も見誤る愚か者か!!」
囚われたという言葉に兵士達の間に動揺が走る。
「どういう事だ!?」
「一体誰に……!?」
「我らの敵はガーランドではない!!打つべき敵はラシード!!そしてその赤髪の男だ!!」
レオナルドは動かぬ腕を気力で上げ、ジョエルを指差した。
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