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7章

37ー4

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    帰り道を歩きながらふと思い出した。

    「ねぇジャック。そういえばマリサが雇ってもらったお屋敷ってこの辺だよね?」

    「あぁ。確か…ほら!あの先に見える大きな屋敷だろ?」

    ジャックが指差した先には孤児院の何倍もある立派なお屋敷が建っている。

    「すごいなぁマリサは。あんな立派なお屋敷で働いてるなんて。ファーレン伯爵もきっとマリサだから紹介してくれたんだろうね。マリサは優しくて働き者だったから。」

    「……なぁリュカ、ちょっと行ってみようぜ。」

    「え!?」

    「いいだろ?ちょっと外から覗くくらい。」

    駄目だよ!……そう言おうとした時にはもうジャックは屋敷に向かって走り出していた。
    近くで見ると更に大きく立派な外観に驚いた。………でも………

    「…何か薄暗くて不気味じゃね…?」

    ジャックがそう言うのも納得だ。屋敷からは人の気配がしない。

    「…ジャック、もう暗くなってきたしマリサに迷惑がかかったら良くないよ。帰ろう?」

    「……わかったよ。」

    ジャックは納得がいかないようだったが、夕食の時間も近いせいか渋々承諾してくれた。

    「……あれ?屋敷の使用人か?」

    ジャックが何かを見つけ指差す。その方向に目をやると、何かを荷車に乗せた使用人らしき男が屋敷の裏口から出てきた。 男の顔は暗く淀んでいる。
    男は荷車を引きながら、敷地の裏手へと進んで行く。男が荷車を曲がらせたその時、荷台から何かがこぼれ出た。

    「……ちょっと待って…あれって………」


    荷台と、上に掛けてあった布からはみ出したのは人の手だった。

    その手は、菫色の袖から出ていた。


    「……あれ、人間か……?死んでるのか…?」

    ジャックは確かめようと歩き出す。

    「駄目だよジャック!!不法に侵入して見付かったらただじゃ済まない!!僕達だけじゃないよ!孤児院の皆もだ!」

    「でもお前も見ただろリュカ!?あれ…どう考えても死体だろ!?マリサが一体どんな所で暮らしてるのか心配じゃないのか!?」

    「心配に決まってるだろ!でも今はまずい!まだ日も暮れてなくて人通りだってある!」

    僕の言葉にジャックは一旦冷静になった。

    「わかったよ…じゃあ夜だ。」

    「え?」

    「真夜中なら孤児院を抜け出してもバレない。屋敷の人間だって寝てるだろ?だから夜もう一度ここに来る。いいな?」

    ジャックの目は本気だ。僕が断っても一人で行くつもりだろう。

    「わかったよ…。」

    急いで孤児院へ戻ると既に夕食は始まろうとしていて

    「こらっ!お手伝いもしないでどこで遊んでたの!?」

    僕達は揃ってシスターに怒られた。







    深夜、ジャックが僕の肩をつつく。

    「行くぞ。」

    ジャックは小声でそう言うと足早に外へ向かった。
    院長もシスターも、部屋の明かりは消えている。僕達は頼りない木の棒を手に持ち、マリサのいる屋敷へとひた走った。


    屋敷は静まり返り、人の気配も無い。
    周りに人がいない事を十分に確認して、身軽な僕達は塀を越える。

    「確かあっちの方だったよな…」

    昼間男が消えて行った方向へジャックと向かう。…本当に不気味な屋敷だ。明かり一つついていない。

    「あったぞ!あの時見た荷車だ!!」

    それは屋敷の奥に放ってあった。
    荷車の横には土の付いたスコップが置いてある。

    「……土の色が違う……。」

    月明かりを頼りに目を凝らすと、乾いた土と湿った土の違いがはっきり見える。

    「まさか…ここに死体を埋めたのか?墓地じゃなくてこんなところに?」

    僕が口にした途端ジャックはスコップを手に持ち構えた。

    「や、やめろってジャック!!本当に死体だったらどうするんだよ!?」

    けれどジャックは聞いてくれない。
    ザクッとスコップが勢いよく埋まる音が響く。上の土をどかした後、ジャックは手で土を掻き分けて行く。しばらくそうしていたが、ある場所でジャックの手が止まった。

    「……嘘だろ……!…嘘だって言ってくれ…!」

    
    そこにはマリサがいた。
    冷たい土の中、傷だらけで、青アザだらけの身体で。

    僕は初めて見る死体に吐き気が込み上げた。しかもそれが姉のように慕っていたマリサだ。
    ジャックも同じように口を押さえた。

    「何でだよ!!何でマリサが…」


    「誰だ!!」


    その時、すぐ側で男の声がした。

    「逃げるぞジャック!!」

    僕はすぐに身を翻し走る。

    「わあっっ!!!」

    しかし僕よりも足の遅いジャックは男に追い付かれてしまった。

    「ジャック!!」

    「逃げろリュカ!!いいから逃げろ!!」

    「駄目だよ!一緒に……」

    言いかけたその時

    「おい!何だ!!」

    また別の声が聞こえた。大人二人相手じゃ逃げられっこない。でも…でも…ジャック!!

    「いいから行けーーーーーっ!!!」

    「…っごめん!!!」

    僕は全速力で駆けた。


    来た道を半分ほど戻ったところで後ろを確認すると、僕の足についてこれなかったのだろう誰の姿も見えない。
    どうしよう…どうしよう…ジャック…!!
    震える足で孤児院へ戻り、眠るコリンの隣に滑り込む。

    どうか…どうか神様…ジャックを助けて下さい!!




    そして翌日ジャックは帰ってきた。冷たくなり、布にくるまれて。








    
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