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7章

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    初めて訪れるダレンシアの王城は、城と言うよりまるで要塞のようだと思った。周囲は高い石の壁で囲まれ、所々に小さな窓のような穴が空いているのは矢を放つためだろうか。

    城の中に入ってもその殺伐とした雰囲気は変わらなかった。城内には兵士が当たり前のように闊歩し、どこからか下卑た笑い声も響いてくる。 

    「リンシア王女が言っていた通り、まさに“男臭い国”だろう?びっくりした?」

    驚く事ばかりでビクビクしている私にもはや慣れっこという風情でジョエル様は話し掛けた。

    「これほどまでとはさすがに思ってもみませんでした。リンシア王女がエルの恋愛話をあんなに聞きたがったのもこれで理解が出来ます。」

    これだけ男臭さムンムンの中で育ったのだ。それはお菓子や恋に憧れるはずだ。

    「あの時は本当に参ったよ…俺の恋愛話を聞きたいなんてね。君との事だったから尚更。」

    「私との事…リンシア王女は何て…?」

    呆れているだろうか。私がユーリを裏切ってこの人を選んだのだと……。

    「後でまた話があると思うけど、ガーランドの王宮で起きた事件の犯人はまだ特定されていないそうだ。俺は疑われていない。その日は遅くまで王城で民を誘導したり、食料を提供したり忙しくしていたからね。」

    「民を誘導?なぜ?」

    「城門付近で爆発騒ぎがあった。…俺が起こした事だけどね。」

    は?爆発騒ぎ?俺が起こした?
    一体何を言っているのこの人は。

    「爆発による死人は出してない。…リュカを中に入れるためには城内の人間の注意を引かなきゃならない。どうしても必要な事だったんだ。」

    呆れを通り越して、もはや諦めしかない…。
    民を助けるフリをして、リュカが私を拐うのを待っていたなんて…どこまでどうしようもない人なの……。
    それにしてもリュカという男は一体何者なのだろう。あの暗い闇を纏ったような雰囲気。まるでゴミを見るような目つき。
    …でもジョエル様にだけは違うのよね。
    心酔…という言葉が一番しっくり来るような、でも何となくそれとも少し違うような…。

    「エル?」

    「何だい?」

    「……あのリュカという男は一体何者なのですか?」

    私の問いにジョエル様は考え込む。その様子から察するに、リュカという人間をどう説明したら良いのか迷っている…そんな感じだ。

    「…リュカは育った環境が複雑でね……。親もいないんだ。縁あってあいつがまだ幼い頃にうちに引き取ったんだけど…あれからもう何年になるかな……。」

    あんな恐ろしい男と公爵家の息子にどんな縁があったと言うのだろうか。

    「その事は今度またゆっくり話すよ。」

    うまくはぐらかされてしまったのだろうか。そんな私の心に気付いたのかジョエル様は困ったように笑って言う。

    「大丈夫。君の知りたい事はすべて話すから。安心して?」

    私は彼の言葉に頷くしかなかった。



    リンシア王女の部屋は城の奥に位置していた。部屋の周りには庭園があり、奥向きの仕事をする者が出入りしていて兵士は警備の者しかいない。なるほど、これなら年頃の女性も安心だ。部屋の前でガーランドでも会ったリンシア王女付きの侍女が待っていてくれた。

    「ジョエル様、マリエル様、お待ちしておりました。どうぞ中へ……」

    長旅の翌日で疲れているだろうにそんな素振りは一つも見せない。私達は彼女に案内されるまま扉の中へと入った。


    「まぁ!!まぁまぁマリエル様!!」

    久し振りに聞くそのけたたましい大声に何だかホッとして、つい涙腺が緩んでしまう。少し位なら泣いたって構わないだろう。リンシア王女には嫌われてる設定になってはいるが、一応ジョエル様を囲んで恋愛話も共に聞いた仲だ。何よりここに来て初めて会う知り合いなのだ。

    「あらまぁマリエル様ったらなんで泣いてますの!?今は幸せの絶頂でしょうに!」

    リンシア王女は私に近寄り手を握る。

    「それにしてもびっくりしましたわ!あの時お聞きしたジョエル様の想い人がまさかマリエル様だったなんて!マリエル様が何者かに拐われたと聞いた時は驚きましたけど、ジョエル様が命懸けでマリエル様を連れ出したなんて……本当に素敵ですわ……!」

    その時だった。ウットリと夢見るような表情で空を仰ぎ見るリンシア王女が“ぎゅっぎゅっ”と二回、強く私の手を握った。まるで何かの合図のように。


    リンシア王女………。
    なぜだかわからないが  
 【わかっていますよ、大丈夫】
    そう言われている気がした。



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