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7章
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しおりを挟むあの検問所を通過してどれくらい経っただろう。ここはガーランドに比べて道もろくに整備されていない。馬車の揺れに気分が悪くなる。
「マリー…大丈夫かい?少し休む?」
ジョエル様は馬車に乗ってからずっと私を膝に乗せたままだ。いい加減疲れたのはそっちだろうに私を自分から離そうとしない。 休んだところで同じ道は続くのだ。また揺られれば同じ事。それよりも私は目的地まであとどれくらいなのか知りたかった。
「……いつ着くのですか……?」
どこへ向かっているのかさえわからない。もう教えてくれても良いだろうにこれ以上私を刺激しないようにとでも思っているのだろうか。しかし気分はこれ以上悪くなりようがないほどに最悪だ。余計な気など回さないで貰いたい。
「もうすぐだよ。そこに迎えの者が来ているはずだ。」
迎え?一体どこの誰が迎えに……?
「ジョエル様、待ち合わせの場所です。どうやら迎えは既に着いていたようですね。」
リュカの声と共に馬車が止まる。
「マリーはここにいて。少し挨拶してくる。」
ジョエル様はそう言うと馬車から降り扉を閉めた。
わざわざ他国の方が迎えに来るなんてどういう事なのかしら。それに…逃げて来た割に国境を越えた途端周りを警戒する様子も無くなった。まるでこの国の方がガーランドより安心出来るとでも言うように……。
「ジョエル様!よくおいで下さいました!」
馬車の外から中年男性と思しき声がする。
知り合いなのかしら?ずいぶん親しそうな口調だわ…。
「ラシード将軍!?わざわざ君が来てくれたのかい?迎えなら他の者でも良かったのに…でも嬉しいよ。これからよろしく頼む。」
「ジョエル様そんな!我がダレンシアはジョエル様を歓迎致します!どうぞこれよりはこの国を祖国と思ってお過ごし下さい!」
行き先はやっぱりダレンシアだったのね…。違っていてくれたらいいのにと思っていたけれど、これでガーランドに帰れる可能性はもう無くなったと言っていいだろう。
おそらくこのラシードと言う将軍は、リンシア王女の言っていた父王から遠ざけられてしまった信頼の置ける将軍とは違う。現在の…変わってしまったダレンシア国王の側に侍る将軍。すなわちガーランドにとっては敵となる人だ。これからそんな人に匿われ、側には四六時中ジョエル様がいる。絶望的だ。私が祖国の土を踏む事はもう二度と無いだろう。
「ジョエル様、お連れの方は……?」
「あぁすまない、彼女は身重でね。気分が悪くなってしまったらしく馬車の中で休ませている。」
「何と!まさかジョエル様の……?」
「あぁ、私の子なんだ。わかったのはつい最近でね。また後日挨拶の場を設けて貰えると助かる。」
「それはおめでとうございます!お任せ下さい!奥様が何の心配もなくお過ごしいただけるようこのラシードめが手配いたします。」
「ありがとう。遠慮なく世話になるよ。」
……この子がもしガーランドの王族の子だと知れたら間違いなく殺される…。帰る手立てをすべて失った今、私とこの子が頼れるのはジョエル様しかいないのだ。
「ユーリ………。」
これから先はその名前を呼ぶことさえも許されない。その姿を思い返して泣く事も。ジョエル様を受け入れ、彼の機嫌を損ねないように生きて行かなければならないのだ。それでも……
「それでもあなたを守りたいの…私とユーリの赤ちゃん……。」
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