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7章
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しおりを挟むこのリュカと言う男は人を殺す事だけじゃなく、通常業務も早いようだ。ジョエル様が命じた馬車は急に用意した割に乗り心地は悪くない。それでも揺れは腹の子に障るだろうとジョエル様は私を敷布を敷いた自身の膝に座らせた。
「マリー。これから国境を越えるが検問では静かにしていてくれ。」
検問で私が騒げばどうせまた罪の無い人を殺すのだろう。私はジョエル様に身体を預け、無言で肯定をする。
これから知らない土地でこの人と共に暮らし、子を産み育てて行かねばならない。私の何がいけなかったのだろう。自分でも知らないうちに多くを望み過ぎてしまったのだろうか?こんな何の役にも立たない私が一国の王子様を……ユーリを独り占めしようとしたから罰が当たったのだろうか。ただ初めて好きになった人の側にいたかっただけなのに。
オデット…大好きなお姉様…。領地から出なくなった私を一度も責めたりしなかった。どんな時でも前を向き逞しく笑う姉。もう二度と会えないのだ……。
自分のシャツが濡れている事で私が泣いている事に気付いたのだろう。ジョエル様は私の頭を撫で続ける。
「もう少しで国境検問所です。」
馬車の外からリュカの声が聞こえる。
「わかった。うまくやれ。」
検問所らしき場所へ到着したのか馬車が止まる。国境を越える時は必ず国境兵からの取り調べを受けなければならない。一体どうするつもりなのだろう。
「……越境の目的は“親族に会うため”か。念のために馬車の中も調べさせてもらうぞ。」
足音がこちらへ近付いて来る。
「…マリー、黙っていてね。」
ジョエル様は私を隠すでもなく同じ体勢のままだ。
「開けるぞ!」
兵の声と共に馬車の扉が開く。
「夫婦か。奥方はどうしたんだ?具合が悪そうだな。病気か?」
「いいえ。妻はいま身重でして…。馬車の揺れに少し気分が悪くなっただけです。」
「そうか…じゃあ道中気を付けてな。」
「はい。ありがとうございます。」
やけにあっさりと済んだのは、提出が求められる身元確認のための書類がしっかりとしたものだったからなのだろう。きっとこの日のために用意していたのだ。と言うことは、泣きながら私を抱き締め懺悔したあの日も、子供達を抱き上げて遊んでいたあの日も、この人はたくさんの血が流れる事をわかった上で笑っていたのだ。
ごめん…ごめんね…。私はただお腹の子に謝る事しか出来ない。こんな弱いお母さんでごめん。でも…どうしたら良いのかわからないの。こんな時どうしたら……。
「終わりました。では出発しましょう。」
リュカの声に再び馬車はゆっくりと動き出す。
その時だった。
「お、おい!!あれを見ろ!!!」
国境兵らしき叫び声が響く。
「王都からの狼煙だ!!急げ!!国境を閉鎖しろ!!」
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