上 下
213 / 331
7章

しおりを挟む






目が覚めるとベッドの上だった。

「マリー!」

声のする方へ目をやると、ユーリが私の手を握っている。その目は心配そうに揺れていた。

「……ユーリ…………。」

いつの間にか着ていたドレスは着替えさせられている。やはりあのまま倒れて意識を失ってしまったのだ。

「ごめんね…心配させて。もう大丈夫だから…」

起き上がろうとする私をユーリは止める。

「ユーリ………?」

私を真っ直ぐに見つめる目が涙で潤んでいる。

「どうしたの…?」

ユーリの頬に手を伸ばすと、彼は私の手を取り口付ける。

「マリー……愛してるよ。」

額に、頬に、何度も何度も優しいキスが降ってくる。一体どうしたのだろう。そんなに心配をかけてしまったのだろうか。

「もう気分は悪くない?」

そう言われるとほんの少し胃の辺りが落ち着かない感じだが、先程の吐き気に比べればマシな方だ。

「……マリー。落ち着いて聞いて欲しい。マリーのお腹の中には新しい命が宿ってる。」

「………え………?」

新しい命って…まさか……赤ちゃんが………?
思わず手が下腹部へと伸びる。

「月のものはちゃんと来ていたかい?今月はまだ来ていなかったのでは?」

そう言えば………でも今までにも遅れる事はたくさんあったからそんなに気にしていなかったけど、確かに今月はまだ来ていない。

「君が眠ってる間に医師に診てもらったんだ。間違いない。あの日……私達が初めて愛し合ったあの夜に授かった命だ。」

え…………。
まさか、あの時に…?
だって初めてだったのに。何もかもが。

ユーリは驚く私をとろけるような笑顔で見つめてる。

でも……こんな時に良いのだろうか……。
こんな大変な時に私…ただでさえ何の役にも立たない私が……。

「マリー?」

ユーリは私の様子がおかしい事に気付いたのか椅子から立ち上がりベッドの上に乗ってきた。
そして私の隣に寝そべり、顔を覗き込む。

「……どうしたのマリー?もしかして………不安なの?」

……不安じゃないと言ったら嘘になる。
でも、でもそれよりも今は……

「……嬉しい……」

ユーリの赤ちゃんが私の中にいる。
私と、ユーリの愛が溶け合った証が。

「ユーリ、いいの?私……赤ちゃんを産んでも本当にいいの?」

ユーリはまるで“何を言っているんだ”と言うような顔をする。

「当たり前でしょ。私の妻は君だけだって何回言ったら理解してくれるの?」

「だってユーリ………」

「だってじゃないよマリー。」

ユーリは優しく私を自分の腕の中に抱き込み、頭を撫でてくれる。

「…君が倒れた時にね、心配するのと同時に頭の中にもしかして……って思った。」

「もしかして…って、赤ちゃんの事…?」

「うん。」

すごい。何でそんな事わかるの?
私なんて自分の事なのに全然気付かなかった。

「ここのところずっと眠そうにしてたでしょう?最初は疲れてるのかなと思ってたんだけど…あとはマリーの身体に触れる度に体温の高さも気になってね。」

「…そんなに熱かった?」

「うん。熱があるってほどではないんだけど……でもも凄く熱かったから……。」

………ナカってナカですか!?
真っ赤になる私を見てユーリがまた微笑む。

「…夢みたいだ………」

「………ユーリ?」

ユーリはぎゅうっと私を抱き締める。

「初めて好きになった女の子と結ばれて、子供まで授かった……本当に、夢を見てるみたいに幸せだよ……。」

それは私の方だ。
孤独の中から救ってくれた。それもまるでお伽噺の世界に出てくるようなとびきり美しい王子様がだ。国中の女性誰もが恋に堕ちるほどの端正な顔立ち。こんな人が一途に私だけを望んでくれた。

「マリー、何にも心配しないで。私が君を守るから。君は自分とお腹の子の事を第一に考えながら私の側にいなさい。」

「はい………。」

不安はたくさんある。
でもユーリの側にいればきっと大丈夫。

「マリー。お腹の子の事………嬉しいって言ってくれてありがとう………。」

ユーリは震える声でそう言った。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。

白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5人の旦那様と365日の蜜日【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる! そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。 ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。 対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。 ※♡が付く話はHシーンです

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

皇妃は寵愛を求めるのを止めて離宮に引き篭ることにしました。

恋愛
ネルネ皇国の后妃ケイトは、陰謀渦巻く後宮で毒を盛られ生死の境を彷徨った。 そこで思い出した前世の記憶。 進んだ文明の中で自ら働き、 一人暮らししていた前世の自分。 そこには確かに自由があった。 後宮には何人もの側室が暮らし、日々皇帝の寵愛を得ようと水面下で醜い争いを繰り広げていた。 皇帝の寵愛を一身に受けるために。 ケイトはそんな日々にも心を痛めることなく、ただ皇帝陛下を信じて生きてきた。 しかし、前世の記憶を思い出したケイトには耐えられない。命を狙われる生活も、夫が他の女性と閨を共にするのを笑顔で容認する事も。 危険のあるこんな場所で子供を産むのも不安。 療養のため離宮に引き篭るが、皇帝陛下は戻ってきて欲しいようで……? 設定はゆるゆるなので、見逃してください。 ※ヒロインやヒーローのキャラがイライラする方はバックでお願いします。 ※溺愛目指します ※R18は保険です ※本編18話で完結

義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる

一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。 そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

処理中です...