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6章
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しおりを挟むとても素敵な人だった。
年上のお兄さんとお話するのが初めてだったから、すごく緊張した。でもその人は私の話を目を見ながら笑顔で聞いてくれて、興味深そうに相槌を打ってくれて、お茶会の間中ずっと一緒に笑ってくれていた。
帰る時はとても淋しかった。また会いたい。そう思った。
だからショックでたまらなかった。
頭の中から記憶が消えてしまうくらいに。
「………君をとても大切に思っていた。」
頭の上から響いてくる声は震えている。
声と同じく震える手が遠慮がちに私の頭を撫でる。何度も何度も。
「大切に思っていたのなら何であんな事をしたんだと思うだろうね………。」
その通りだ。確かに幼い子供が好きな子に意地悪する事があるのは知ってる。でもあれはそんな可愛いものじゃない。
「初めて君に会ったのは………君がうちに遊びに来る前の事だ。」
「ジョエル様のお家に遊びに行く前………?」
「………うん。君の母上が亡くなった後、気落ちする君を心配したヘルマン侯爵夫人がお茶会に誘っただろう?それは憶えている?」
それは多分マチルド様と初めてお会いした日の事だろう。
「………でもジョエル様はいなかったわ。」
「いたんだよ庭に。少し離れた所から君を見ていた。」
何でそんな所で………でも私、この人の口からマチルド様に関する事を聞くのは初めてだわ。
ユーリから聞いた話だと、ジョエル様はマチルド様との事をあまり公にしたくない感じなのかと勝手に思っていたけれど………もしかしたら動揺して喋ってしまっているのかしら………。
「お姉さんと一緒だったね………。良く晴れた日で、君の美しい髪が陽の光を受けてキラキラと輝いていた。」
美しい髪?
その言葉に私の身体が強張る。理由はよくわかっているのだろう。私を抱くジョエル様の腕に力が籠る。
「すまなかった………謝って済む問題じゃないのはわかってる。だけどお願いだ。もうこんな機会は俺には二度と訪れない。だから最後まで聞いて欲しいんだ。頼むから………!」
抵抗したところでどうせ無理やり押さえ付けるのだろう。私は身体を強張らせたまま彼の話の続きを待った。
「君が好きだった。好きで好きでたまらなかった。だからシモン様にも婚約の打診をしたんだ。でも呆気なく断られてしまった。君には君の想う人と添い遂げて欲しい。そう言われてね………。」
あぁ、これはきっと本当の話なのだ。
それはお父様の言葉に間違いない。
「だから俺は………俺は君に………。」
抱き締められた身体が痛い。強い力に骨が軋むようだ。
「ジョエル様………痛い………。」
見上げると薄い緑の瞳と目が合う。その目は濡れていた。後悔と、懺悔で。
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