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6章
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しおりを挟むリンシア王女が正門へ到着したとの報せを受け、ユーリと広間へ向かう。
中には既に大勢の有力貴族が駆け付けていた。
「お父様!!」
玉座に近い場所に立つ父を見つけ、久し振りに見るその顔がやつれていない事に安堵する。
「マリー!元気だったかい?悪かったね、何も力になってやれなくて…休暇のツケがわんさか回ってきてね………。」
お父様から何やらよからぬオーラが漂っている。純粋に休暇だと思っていたのに騙された的なその後の出来事をユーリに訴えているようだ。
「シ、シモン。休暇の許可は父上が出したから詳しい事はそっちに言ってくれ。私はマリーを全力で守るだけだ。」
お父様は笑いながら怒っている。間違いない。
周りに目をやると、レーブン様と………赤髪に薄い緑の瞳。
あぁ、間違いない。シャルル様にも見せてもらった。
この人がジョエル様の父親。マーヴェル公爵家の当主ダニエル様だ。
ダニエル様は私達を見付けると笑顔で側に寄ってきた。
「王子、ご無沙汰しております。最近は長男がご迷惑をお掛けしているようで申し訳ありません。」
長男のかけてるご迷惑……私達の婚約への横槍の事だろうか。まるで自分には関係ないと言った物言いに違和感を感じてしまう。当主の意向が一族の意向のはずなのに。
そしてダニエル様は私の方へと視線を移す。
「やぁ………本当に美しく成長されて。うちに遊びに来ていたあの小さな女の子がこんなに大きくなるなんて、お互い時の流れの早さを感じるなぁシモン?」
お父様はダニエル様の言葉を肯定するように頷き返す。
「遊びに?………私が…マーヴェル様のお屋敷にですか?」
私の言葉にダニエル様はおや?と言う顔をした。
「まだ小さかったから憶えていないのかな?そうだよ。我が家のお茶会に来てくれたんだ。」
記憶がない。ジョエル様に会ったのは他のご子息やご令嬢の所ではなかっただろうか。ジョエル様の家へ私が?遊びに?
「シモンに断られた時はあいつ傍目にわかるほど落ち込んでね。いや、今だから話せる笑い話だけどね。」
「断られた………?お父様、何の事?」
「おや、シモンから聞いていなかったのかな?うちのジョエルが君に婚約を申し込んだ話を。まだ君が幼すぎてシモンにバッサリと断られてしまったんだけどね。」
「え!?」
「そういえばそんな事もあったね。もう十年以上も前の話だけど。」
そんな………ジョエル様が私に婚約を?
嘘でしょう?だってあんなにひどい事を私にしたのに。それなのに何で………。
訳がわからなくて隣にいるユーリを見ると、またあの時の感情の抜け落ちた表情をしている。
「ユーリ………?」
名前を呼ぶといつもの微笑みは返ってくるものの、やはりどこか上の空だ。
その時、突然周りがざわつき始めたと思ったら、国王陛下と王妃様がいらっしゃった。横にはシャルル様も。
「マリー、行こうか。シモン、ダニエル、では失礼するよ。今日はよろしく頼む。」
たくさんの疑問を残したまま私はユーリに手を引かれ、陛下達の待つ玉座へと進んだ。
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