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4章

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「これから兄上のところへ行くの?」


「いいえ………今日はシャルル様に会いに来たのです。シャルル様とお話をするために……。」

ついでじゃない。本当にそのためだけに。

「マリーは優しいね………そしてとても真面目だ。でも嬉しいよ。
会いに来てくれてありがとう。マリーの口からちゃんと聞けて本当に良かった。」

柔らかな微笑みはやはり天使のよう。

「そうだ、ハンカチもありがとう。
マリーは刺繍がとても上手なんだね。ずっと大切にするよ。」

引きこもり歴だけは誰にも負けない私だ。誰にも会わず部屋でできる刺繍には実はかなりの自信がある。

「そう言えばシャルル様もうすぐお誕生日でいらっしゃるのですよね?マリーからも何か贈らせて貰えませんか?何か欲しい物など教えていただけたら………」

シャルル様はうーん…と考え込む仕草をして

「マリーが欲しい!って言いたいところだけどそれは却下だもんね。今すぐには思い付かないけど考えておくね。でもその気持ちだけで充分だよ。

気を付けて帰るんだよ。またね、マリー。」


シャルル様は私の前で悲しい顔一つ見せなかった。リアン様の言った通りだ。彼はとても心の強い人だった。






すっかり歩き慣れた王宮だが、何だかいつもと様子が違う。
何かしら……とても人が多いわ………。
文官の皆様が忙しなく行き来するのはよく見たけれど、そうじゃない。明らかに貴族と思しき方々だ。こういう時にやはり引きこもっていた日々が足を引っ張る。挨拶をすべきかどうか以前に、相手の家名すらもわからない。
案内を断ってしまったがやはりシャルル様の侍女に付いてきてもらえば良かったかも……。


「あの、間違いでしたら本当に申し訳ありません………もしかしたらフォンティーヌ公爵家のマリエル様じゃありませんか?」

やけにこちらを見ている少女がいると思ったら、いつの間にか私の行く手を塞ぐように前に立っている。少女は美しい金色の髪をしている。

誰だろう……シャルル様の似顔絵にも無かったと言う事は、さほど重要な人物ではないと言うことだろうが………。

「あら、私ったら御挨拶が遅れてしまいすみません!私の名はマリアンヌ。マリアンヌ・マーヴェルと申します。」

マーヴェル?今、マーヴェルと言った……?

「兄のジョエルとは昔からのお友達だそうですね。ですからお会いできるのをとても楽しみにしておりましたの!」

マリアンヌと名乗った少女はうふふ、と無邪気に笑いながら私を見ている。その目は私と同じ空色だ。

「今日はユリシス殿下に御挨拶に参りましたの。急な事で失礼にあたらないかと言ったのですが兄がどうしてもと………。あら、お兄様!」

私の後ろに向かってマリアンヌ様は声を上げた。
この嫌な空気を身体が憶えてる。

「おや、これはこれはマリエル様ではありませんか。まさかこんなところでお会いできるなんて思いませんでした。」




「………ジョエル様………。」






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