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3章
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しおりを挟む「マリーの昔話ならぜひ聞きたいね。」
突然ユリシス様が言い出した。
「マチルド。君も憶えているだろう?
マリーは昔とても美しい白金の髪色だった。
あぁマリーごめん、勿論今もとても美しいよ?
ただあの髪色は子供の時にしか見られない本当に特別なものだ。もう一度見たいな………。」
ユリシス様はうっとりするような眼差しで私を見つめると、肩に流れる私の髪を一房掬い上げ、愛おしそうに口付ける。
マチルドと取り巻き達は顔を赤くしてユリシス様の行動を凝視している。
「私達の子供が産まれたら、君のあの美しい髪色を受け継いでくれるだろうか?
楽しみだな……。
マリー、早く私を受け入れてくれないか?」
よほど悔しいのだろう。マチルドの扇を握る手には筋が浮き立ち、小刻みに震えている。
「マリーの透き通る髪の色、本当に綺麗だよね。僕も初めて見た時はあまりの美しさにびっくりしちゃったもん。あーあ、僕も見たかったなぁマリーの子供の時の白金の髪。
ねぇマチルド?マリーはどんな感じだった?」
「えっ……………」
シャルル様に話を振られたマチルドはわかりやすくうろたえた。
それはそうだろう。私の髪色を罵倒した上に自分の髪色こそ至上であると宣ったのだ。
答えに詰まるマチルドを逃がさんとばかりにシャルル様のキラキラ笑顔が攻める。
「私も聞きたいな、マチルド。君とマリーの子供時代の話を。マリーから君の話は聞いているけれどね……。」
追い討ちをかけるユリシス様は……笑っていないが輝いている。怖い。
「あの……なにぶん子供の頃の事ですので、私もあまりよく憶えておりませんの。本当に申し訳ございません。ただ、我が家にマリー様がいらっしゃったという事くらいしか……。」
嘘だ。絶対に憶えているはず。
憶えているからこそ私に挨拶をしなかったのだろうに……。
「……そう。憶えていないの。残念だな。
マリーにはこれから母上に付いて王妃のサロンの采配も学んで貰おうと思っていたけれど……良い友人となってくれる人を新たに探さなければいけないね。」
暗にマチルドは失格だと言っているのだろう。
もしも彼女が素直に告白していたのなら結果は違ったのだろうか。私も…子供は時として残酷な事をしたり、言ったりするものだと許せただろうか。
「大丈夫だよ!僕は人を見る目はあるからね。マリー安心して!良い友人になってくれる人を一緒に探してあげる。」
シャルル様の言葉に取り巻き達が『まぁ!』と笑顔で浮き足立つ。自分達にもチャンスがあると思ったのだろう。
だがマチルドが振り返った瞬間彼女達は一斉に黙り込む。こちらからは見えないが、おそらく怒りを滲ませた顔で睨みでもしているのだろう。
「殿下……何か誤解があるようですが、私はマリエル様と仲良くさせて頂きたいと思っておりますわ。マリエル様もどうか私に今までの空白の時間を埋めさせて下さいませ。」
「その必要はない。」
ユリシス様のこんな強い口調聞いたことがない。いつもの柔らかい微笑みも完全に消えている。
「マチルド。正直に話せば少しは人間性に見込みが持てるかと思ったが、『憶えていない』とはね………。
それと君、私の婚約者候補だと方々で言っているそうだが、誤解を招く発言は不敬罪と見なすよ?」
「そ、そんな!!ユリシス様!!」
「名前で呼ぶのを許したのはマリーだけだ。」
ピシャリと言い放ったユリシス様は、もうマチルドの事など視界から消えたようだ。
「マリー、すまなかったね。君の昔話を聞きたくて私がわがままを言ったせいで嫌な思いをさせてしまった。疲れたかい?」
ユリシス様は私を抱き寄せたあと、『少し休もう』と言って歩き出す。
「あっ、あの、ユリシス様。よろしいのですか?」
「大丈夫。あとはシャルルが上手くやるよ。」
振り返るとシャルル様は取り巻き達に囲まれている。
そしてマチルドはその横で去って行く私を憎々しげに睨んでいた。
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