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1章
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しおりを挟む正門へ向かって案内してくれるのは今朝ユリシス様の宮へと連れていってくれた侍女だ。シャルル様とのやり取りも見ていただろう彼女にシャルル様の宮へ少し寄りたいと伝えると、ユリシス様の宮とは対になる方角へ歩き出した。
「マリー!!」
よほど待たせてしまったのだろうか。
シャルル様のお顔が少し疲れているように見える。
「遅くなってしまい申し訳ありません。シャルル様……何だかお疲れのように見えますが大丈夫ですか?もしお身体の具合が悪いようならすぐ失礼しますが………。」
「具合なんて悪くないよ。さぁ、座ってマリー。」
でも、やっぱりいつもと違う。
笑顔が……いつもの輝くような笑顔じゃない。
促されて隣に座ると、シャルル様はうつむいたまま問い掛ける。
「マリー……兄上と婚約するって本当……?」
言葉が切れた後も私の顔を見ようとしない。
「……確かに婚約のお話をいただきましたが、当面は候補ということで様子を見る事になっております。」
少し、ほんの少しだけシャルル様の顔が強張る。
「……シャルル様、本当にどうされたのですか?まるで……迷子のようなお顔ですよ……?」
シャルル様の方へ身体を向けて覗き込むように近付き見た瞬間、うつむいていた顔がわずかにハッとしたように前を向き、そしてその表情が大きく歪む。
「……マリー、どうしてマリーの身体から兄上の匂いがするの!?」
「……きゃっっ………!!」
怒りに顔を歪ませたシャルル様に手首を押さえつけるようにして押し倒される。いつもとまるで違うその様子にびっくりして言葉が出ない。
「兄上と一体何を……こんな長い時間何をしていたの!?僕は……僕は………!!!!」
僕はこんなにも君を…………………!
「…………シャルル様……………。」
ポタリ、ポタリと大粒の涙が降ってくる。
私を映す瞳からとめどなく零れ落ちるそれに、胸を強く握り潰されているような気持ちになる。
ふいに手首をつかむ手に込められた力が緩む。
「マリー、マリー、ごめんこんな…こんな乱暴な事をして……マリー……好きなんだ……。マリーが好きなんだ。初めて会ったあの日からずっと……。兄上がマリーのことを好きなのもわかってる……でも駄目なんだ……マリーじゃなきゃ駄目なんだ………マリー……マリー………。」
涙で濡れる顔を隠すこともせずに、ひたすらにマリーと名を呼び愛を乞うシャルル様の姿に、いつの間にか私の瞳からも涙が零れ落ちる。
シャルル様は私の手首に添えた手を指先へと滑らせ自身の指を絡める。そして身体をゆっくりと私に沈ませて、口付ける。
「マリー………兄上が好き?マリーは兄上のものになるの?」
何度も何度も優しく触れるだけのキスは、シャルル様の涙の味がする。
「マリー、嫌だ。嫌だよ…………。」
どうしたらいいのかわからなかった。
でもその涙を止めたくて、絡められた指を外してシャルル様の背に手を伸ばす。抱き締めるように背をさすると、しばらくして落ち着いた呼吸が聞こえてきた。
「……シャルル様……どうか、マリーの話を少しだけ聞いていただけませんか………?」
未だ涙の滲む碧色の瞳が私を見つめ返す。
「……うん。聞くよ……。でももう少しだけこうさせて…………。」
そう言うとシャルル様は私を優しく抱き締め返し、深く深く口付けた。
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