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1章
9ー6 ユリシス
しおりを挟む「マリーお嬢さんお久しぶりです。いつもアニーの足をこんな……すみません……。」
「いいのよアラン。それよりも久しぶりね。アニーが寂しがってたわ。」
少女は、淡い空色の瞳にぷっくりとした赤い唇をしていた
「兄さん、急にどうしたの?びっくりしたわ。それに……その子は……?」
どうするべきか。こんな真っ昼間に目深にフードをかぶってるなんて変に思われるよな。
「あぁ、今日はこの子の事で先生に診てもらうんだ。知り合いの息子なんだけど、急に奇声上げて暴れたりすることがあるらしい。極度の人見知りで、フードがないと人前にも出れないんだ。」
おい!!!なんだその説明は!!!
王子になんて言い草だ!!!
「私と一緒ね。」
切なげにマリー嬢が僕を見る。
「一緒………?」
僕が言うとコクンとうなずき下を向く。
「私も人前に出たくないの。怖くて……。」
「怖い?人が?」
彼女は少し黙ったあとに教えてくれた。
同じ年頃の子に、白金の髪を幽霊のようだとからかわれ、父親から見えないところへ連れ出され、いつもいじめられていた事。お茶会に出ても同じで、無視されていた事を。
「人が嫌いな訳じゃないの。アニーやアランの事は大好きよ。でも、同じ年頃の子は怖い。皆私をいじめるから……。だから毎日ここにいるの。ここの皆はとても優しいから。それに、ここはお母様が大切に守ってきた場所だから、これから私がずっと守って行くの。」
アニーもアランもこの話を知っているのだろう。でもどうしてやることもできない。相手は貴族だから。
アランの母親を轢いた貴族は【飛び出してきたお前らが悪い】と、手当てもせずに走り去ったそうだ。
マリー嬢をいじめたやつらも同じような貴族の子供なのだろう。おそらく公爵家のマリー嬢に嫉妬して……汚いやり方だ。アニーの脚を揉んでやるくらい優しい性根だ。やり返すことなんてできなかったのだろう。
「………君はとても綺麗だよ。白金の髪は子供のうちだけの特別な物だと聞いている。こんなに綺麗な髪なんだ。大人になればきっと素晴らしく美しい金の髪になるよ。」
僕の言葉にアランの目が限界まで開いたのが見えた。
「いつかきっと君を外へ連れ出してくれる人が現れるよ。だから君は何も心配しないでここにいたらいい。」
マリー嬢はぼくの言葉を聞き終えたあと、その綺麗な瞳から涙を一筋こぼした。
「ありがとう」
そう言って彼女は笑顔を見せてくれた。
そして彼女はまたアニーの脚を優しく擦る。
まるで脚に話し掛けるように。
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